第114話 夜這い

 夕食を終えると俺達は再びバスに乗り込む。

 宿泊予定のホテルまで再出発だ。


 ちなみに結構お腹いっぱいで歩きづらい。

 俺だけでなく、他の奴らも食べ放題を満喫していた。

 次から次へ注文していたため、店側にかなり負担をかけたのではないかと思う。

 特にうちには大食いが一人いるからな。


「なによ」

「……お前ってあれだけ食うのによく体型維持できるよな」


 隣に座る姫希は、うちの部内では凛子先輩の次に細身だ。

 食べている量と見た目が一致しないタイプである。

 一種のイリュージョンだ。

 一体どこへ消えているのか。


 気まずそうに顔を背ける姫希はさて置き、俺は前に座る唯葉先輩に尋ねた。


「ホテルってどういう部屋割りなんすか?」

「わたし達が二人部屋で、おねーちゃんと千沙山くんは一人部屋です」


 移動手段と同様に、ホテルの予約も唯葉先輩に任せていた。

 実際には彩華さんがやってくれたのかもしれないが、とりあえず俺は関与していない。

 というわけで聞いてみると、妥当な部屋分けだった。


「誰と誰が同じ部屋かも決まってるんですか?」

「一応あきらと姫希、凛子とすず、わたしと薇々って思ってるんですけど、どうでしょう」

「僕はそれでいいと思うよ」

「私もですっ」

「あたしもそれでいいです」

「私も~」

「しゅうきと同じ部屋じゃないのは残念だけど、凛子ちゃんと一緒に寝れるのは嬉しい」


 各々頷き、スムーズに部屋分けが決まる。

 こういう時仲が良いってのは楽だな。

 一々ギスギスしていては精神摩耗が凄いはずだ。


「柊喜一人で寝れる? なんなら隣で添い寝してあげよっか?」

「何言ってんだお前。邪魔だ」

「あはは」


 すっかりいつも通りのノリに戻ったあきらが声を上げて笑う。

 そんな様子に釣られたのか凛子先輩も口を開いた。


「ふふ。夜が楽しみだね」

「何する気なんすか……」


 夜這いでもしてくるつもりなのだろうか。

 流石に洒落にならないのでやめて欲しい。


 そんな会話をしながら、俺達はホテルに向かった。



 ◇



「悪くない部屋だな」


 デカいベッドとテーブルが一つずつ、そして綺麗なユニットバスがあるだけの部屋。

 どこにでもある普通のビジネスホテルだ。

 でもこれでいい。

 ようやく一人になれた。


 大きくため息を吐いてから、まずシャワーを浴びに行く。

 一応俺も汗をかいているし、一日動いた後だからまずは体を洗い流したかった。

 服を脱いでから浴室に入り、シャワーを流す。


 今日は色んなことがあった。

 部活としての結果で見ると最悪だったが、今後に希望が見いだせないというレベルでもなかった。

 一番の懸念点だったあきらもだいぶ自分を取り戻したように思うし、明日は期待したいと思う。

 またシュートを外しまくろうが、俺達もその時は再びフォローをするだけだ。


 明日に備えて色々考えていると、一気に眠気が襲ってきた。

 一瞬意識が飛んでいたのか、自分がどこを洗ったのかわからなくなる。

 髪はもう洗ったんだっけ。

 よくわからないのでシャンプーを出そうとしたが、それすらも間違えでプッシュしたのはボディソープだった。

 わけがわからん。


 そんなこんなでシャワーを浴び終えて部屋に戻る。

 そのままベッドに横になった。

 今にでも眠れそうだ。


 スマホのアラームを設定し、目を閉じながら俺は布団をかぶる……。

 しかし、すぐに俺の睡眠は妨げられた。

 部屋の扉をノックする音と、スマホに送られてきた着信音で叩き起こされる。

 誰の仕業かなんて言うまでもない。


 文句を言ってやろうと扉を開けると、ニヤニヤと笑みを浮かべた女子五人が立っていた。

 まさかのスタメン勢揃いである。

 今から試合でもする気なのだろうか。


「……寝ようと思っていたんだが」

「まだ九時半だよっ? せっかくの合宿だから楽しまなきゃ損じゃん」

「……明日は朝早いだろ。お前らも寝ろ」

「せっかく遊びに来たのに、釣れないわね」


 何故か上から目線の姫希。

 いや、こいつはいつもこんなだったか。


 ため息を吐いていると許可してないのに部屋に入り込んでくる。

 鬱陶しい奴らだ。


「柊喜君今シャワー終わったの? 遅いね」


 凛子先輩に言われて気づいたが、全員シャワーを済ませていた。

 ラフな部屋着姿で、なんだかいい匂いがする。


 それにしても、そんなに時間を食っていたのか。

 知らないうちに風呂場で寝ていたのかもしれない。

 フワフワしているため、状況把握が追いつかない。


「何して遊ぶっ?」

「無難に人狼とかかしら。六人いるし」

「すず、人狼のルール知らない」

「狼の役になった人が嘘をつきながら、村人を食い殺していくんです!」

「楽しそう」


 奥では既に俺のベッドが占拠されていた。

 自由な奴らだ。


「眠くなったらいつでも僕の膝を貸してあげるよ」

「それは助かります」


 苦笑しながら、俺達も四人の会話に参加した。

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