第81話 今日はオフ
合宿はその後も続いた。
日曜は全員でピザを食べ、初日同様の場所で寝た。
本当に警戒心が解けていたのか、夜中にトイレに起きた際には姫希の寝顔を拝むことができた。
喋るとうるさいのに、黙った状態の寝顔はこんなにも可愛いのかと、暗闇の中で感動したものだ。
そして、昼の先輩襲撃や、学校に凛子先輩の忘れ物を取りに帰った際の出来事、さらに竹原先輩の謎行動と、あまり良くないことが続いた。
そのせいで雰囲気が悪くならないかと、少し懸念したものだったが、それは杞憂に終わる。
みんなどーでも良さそうに部活を楽しんでいた。
未来の時と違って、あの先輩達の動向には大した興味がないらしい。
いや違うな。
ただ単に頭の切り替えが上手いだけだ。
そんなこんなで祝日だった合宿最終日も完遂し、ついに普通の日常が幕を開ける。
◇
「なーんか寂しくなったねっ」
「騒がしくなくて最高だ」
「素直じゃないなぁ。あんなに楽しそうだったのに」
「……」
条件反射で出た言葉に、ジト目でぴしゃりと言われてしまった。
「またやりたいねっ」
「そうだな、楽しかったし。……でもまぁ次は俺んち以外が良いけど」
「あはは。本当の合宿行っちゃう? 練習試合的な」
こいつらを引き連れて遠征合宿か。
対戦相手を見つけること以上に、無事に目的地に到達するのが難しそうだ。
特にすずとか、一人でどこかに行ってしまいそう。
後は唯葉先輩辺りが迷子になりそうだ。ちっちゃすぎて。
「今失礼なこと考えてるでしょ。春の合宿の時は統率取れてたもん」
「あのメンバーで? 迷子とか大丈夫だったのか?」
「うわー、さいってー。三年生がしっかりしてたから、移動の時は唯葉ちゃんの手を繋いであげてたんだよ。あと、すずは凛子ちゃんが手を繋いで行動を制限してた」
「俺の不安要素は間違ってなかったんだな」
予想通りである。
あの二人は特別な措置を取らなきゃいけないよな。
と、そんな事を考えていたらあきらが立ち上がる。
今日は制服姿だ。
というのも、今日は久々に部活を休みにした。
あまりハードワークを強要するのも良くないし、最近は休みを取っていなかったためだ。
俺がグループメッセージで伝えると、全員秒速で『おっけー!』と各々スタンプやらを送ってきた。
舐めやがって。
何が部活楽しくなってきたね、だ。
オフの連絡にウキウキで返信してんじゃねぇ。
……と言うのは冗談である。
練習の楽しさと、休みの喜びは別の話だ。
そういうわけで、今日は珍しく放課直後に二人でこうして家にいる。
「今日は久々に外食しない?」
「……」
「あ、お金キツいか」
渋い顔を見せた俺にあきらは頷いた。
あれほどの大掛かりな合宿を開催した後で、あまり懐は温かくない。
太っ腹に基本的な支払いを肩代わりしたのも問題だ。
特に暴食の悪魔みたいな奴を含んだグループでやるもんじゃなかった。
「じゃあ私が出すよっ」
「いいよ勿体ない」
「全然! お母さんからお金貰ってくる」
「いやいや、申し訳な――」
「いいって! ってか、お母さんも合宿のこと知ってて、普通に柊喜のお金心配してるからこのくらいさせて」
「……じゃあお言葉に甘えて」
「そうは言っても、うちは柊喜ほどお金ないけどね」
俺の家は金に恵まれている。
前にもした話だが、父親が稼ぎのある人なので、生活費として毎月かなりの額が入ってくるのだ。
だがしかし、父親との繋がりはそこだけ。
最後に会ったのは高校入学の時の諸々準備の時だ。
親子らしい会話はしていない。
俺も父親も、恐らく互いに両者を家族だとは思っていない。
「今度おばさんに礼を言いに行かないとな」
「じゃあ明日はうちで晩御飯食べる?」
「いいな。久々におばさんの手料理食べたい」
「えー? なにそれ。私の手料理じゃ不満ですかっ?」
「違うよ。お前の料理はどれもめちゃくちゃ美味い。あといつも違う料理だから毎回楽しめるし、いっぱい勉強してるのもわかるから感謝してもしきれない」
「……馬鹿じゃないの?」
「はぁ?」
なんで俺、今罵倒されたんだ。
立ち上がった幼馴染の顔を見ようとすると、プイッと背けられた。
なんなんだよ。
「そういえば学校で未来ちゃんとは何かあった?」
「なんにもないぞ。視線を感じる気はするんだが、俺が見ても全然目が合わないし」
「……めっちゃ意識してるじゃん」
「そりゃするだろ。何考えてるのかわかんねぇし」
「そういう事じゃないっ」
はぁとため息を吐くあきらに、俺は首を傾げる。
よくわからない奴だ。
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