第80話 責任取ってくれるんだ

「ただいま」


 帰宅すると、家で待機していた奴らは何故か疲れた顔を見せていた。

 どうしたのだろうか。

 俺達のいない間に乱闘でもしたのだろうか。

 というか、すずがいない。


「すずはどうしたんだ?」

「トイレよ。あの子、ずっと君の帰りを待ってたのに間が悪いわね」

「……なんかすみません」


 姫希の謎の圧に驚きつつも一応謝罪を入れておく。


 俺と一緒に帰宅した凛子先輩はふぅ~と息を吐きながら、あきらが座っていたソファの隣に腰を下ろした。

 ぼーっと見ていると不意に目が合い、俺は咄嗟に視線を逸らした。


 あんなことを言われた後だ。

 流石に意識してしまう。

 それがなくとも、昨日から変わった髪型に少し動揺していたのだ。

 どう接していいかわからない。


「ん?」


 そんな俺達に首を傾げるあきら。

 と、すずがトイレから帰ってきた。


「しゅうき、凛子ちゃん、おかえり」


 のほほんとした顔を見せた彼女に、俺は伝えなければいけないことを思い出す。


「みんな、話がある」

「どうしたんですか?」

「成り行きで宮永君とバスケで1on1勝負をすることになった」

「……え?」


 驚きを漏らしたあきらに俺は続けた。

 話すのは宮永君に会った経緯と、何故その勝負を持ち込まれたかという事。

 そしてその勝負に持ち出された交換条件について。


 全てを話し終えると、姫希が口を開いた。


「そうなのね」

「え?」

「え?ってなによ」

「いや……」


 てっきり、何でそんな勝負受けたのよ! とかお叱りを受けるものだと思っていたんだが。

 予想していた反応と違ってびっくり。

 いや、最近はこいつの反応の予測なんてできていないな。


 そんな俺の考えを見透かしたのか、姫希はふっと笑った。


「どうせ負けっこないんだから心配なんてしないわよ」

「なるほど」


 確かにこいつとはコーチングで一対一をしたことがあるもんな。

 手は抜いていたが、圧倒的だった。


 加えてあきらと唯葉先輩も口々に言う。


「あの先輩って中学の頃からプライド高いよね。どう考えても柊喜の方が上手いのに、なんでそんな勝負やろうとか思っちゃうんだろ」

「宮永君も上手ですけど、まぁうちにいる化け物と比べると流石に勝算はないですよね」


 二人とも苦笑しながら、全く心配していない。

 確かにあきらは中学の頃から俺と宮永先輩の実力関係を知っていたし、唯葉先輩も昨日一対一をしたからな。

 とはいえ、普段温厚な二人にしては随分棘がある。


「っていうか、さっき例の先輩来たわよ。竹原とか言う人」

「え!?」


 俺よりも大きな声を上げる凛子先輩。


「なんか柊喜クンが女バスのコーチしてるのがハーレム気取りでキモいとかなんとか言ってたわね」

「まぁ、確かに」


 正直そう思うのも納得だよな。

 部員は全員見た目可愛いし、羨ましがるのも無理はない。

 まぁ、こいつらに本気でバスケを教える難しさを考えれば、そんな事を考える余裕なんてないのだが。


「で、その先輩をすずが『どっかいけ』って言って突き飛ばしてね」

「すず、危ないよそれは」

「ん。でも普通にウザかったからつい」


 バイオレンスな番犬がうちにはいたらしい。

 飼い慣らした覚えはないのに、初対面時からやけに懐かれていた。


 しかし、そうか……。

 あの人うちに来ていたのか。


「何の目的なんだろう」

「さぁ。ただもう、引くに引けないんでしょう。男にはあるんすよ、そういうよくわからないプライドみたいなのに突き動かされて、取り返しのつかない馬鹿行動を繰り返す時って」

「馬鹿行動って……」

「特に色恋が絡むと」


 俺にもあったからわからなくもない。

 中学の頃に冷やし中華を買い漁っていたのもそうだし、未来に奢りまくっていたのもそれだ。


「でも、やられる方は普通に迷惑だよねっ」

「……おう。だから俺が責任を持って止めさせる」


 向こうから俺に有利な条件で引いてくれると言うなら、こちらが断ることはない。

 この機にストーカーはやめてもらうのだ。


「……責任、取ってくれるんだ」

「コーチとしての監督責任です」


 凛子先輩の言葉に食い気味で付け足した。

 何故この人はいつも変な言い回しをするのだろうか。

 それもあんな話をした後に。

 本当にやめて欲しい。

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