第79話 どっかいけ
※あきらの視点です。
◇
「暇だ」
すずの呟きに、私達四人は顔を上げる。
柊喜が凛子ちゃんと学校に行ってからゲームはやめ、それぞれ好き勝手にスマホを見たりしていた。
しかし、そんな時間に早くも飽きたのか、本を読んでいたすずが愚痴をこぼす。
「しゅうきいないとつまんない」
「あんた、さっきまであいつをガン無視でゲームしてたじゃない」
「まぁただ、人数減ると寂しくはなるよねっ」
女子四人で集まっていると、柊喜が来る前の部活を思い出す。
あの時のメンバーはすずじゃなくて凛子ちゃんだったけど、どのみち女子少数の雰囲気というのは懐かしい。
私の言葉に、ぼーっとポテトチップスを食べていた唯葉ちゃんが感慨深そうにつぶやいた。
「わたしたちもここ最近で色々変わりましたよね。実力は勿論ですが、雰囲気とかも!」
「うんうん、楽しくなった」
「確かにそうね。あいつが来てから騒がしい問題を持ってくる時もあったけど、基本的には楽しくなった気がするわ」
「ん。すずも毎日部活楽しい」
今までの部活と言えば、私、姫希、凛子ちゃん、唯葉ちゃんの四人のうち、暇な人がふらふらやって来てシュート練習をしたりするだけだった。
今のように頭を使うプレイ練習や、きちんとした指導はゼロ。
そもそもやる気も大してなかった気がする。
上手くなりたいという気持ちがなかったわけではないが、正直部員も集まらないからモチベーションそのものが尽きていた。
特に姫希なんて、毎日つまんなそうだった。
「姫希、ほんと楽しそう」
「そうかしら? まぁただ、あいつには色々支えてもらったし、感謝してるわ」
「ふぅん?」
「な、なによ」
最初は文句ばっかり言っていたのに、この変わり様だ。
ジト目を向けると目を逸らされた。
「ってか、柊喜クンも馬鹿よね。あたし達が嫌々練習なんてするわけないじゃない。やる気がないなら練習なんて参加しないわ」
「それはそうです。わたしとあきらだけでしたもんね、彼が来る前も比較的真面目に練習していたのは」
「姫希は部活に来ても毎回『今日ご飯どこ行くの?』しか言わなかったよねっ」
「そんなことないわよ! ……多分」
「姫希食いしん坊」
「顔すら出しに来なかったあんたが言うな」
ぺしっとすずの頭を叩いた姫希。
そしてそれに緩い笑みを浮かべるすず。
「でもこれからは休まない。しゅうきに会いたいから。あと、しゅうきに好きになってもらいたいからバスケも上手くなる」
「ッ! ……動機がちょっと不純だわ。なんか嫌」
「まぁまぁ、みんなで楽しくバスケができる環境に感謝しましょう。全ては千沙山くん……いえ、あきらのおかげですから!」
「私ですかっ?」
「そうですよ。だってあきらが千沙山くんを連れて来てくれなかったら、今の状況はなかったですもん」
「それはそうね。ありがとうあきら」
「ありがと」
「あ、あはは。そっか」
そういう考え方も一応できるよね。
でも、やっぱりすごいのは柊喜だと思う。
誘った私が言うのもなんだけど、この一癖も二癖もあるメンバーを全員楽しませながらコーチングするのは簡単じゃないと思う。
夜遅くに練習メニューを考えてくれてるのも知ってるしね。
「……私ももっと柊喜の支えになんなきゃ」
「え?」
「ううん。なんでもない」
とかなんとか、そんな事を考えているとインターホンが鳴った。
「しゅうき帰ってきた!」
「凄い食い付きね」
いそいそと玄関へ向かうすずに苦笑しつつ、私達も連れだって玄関へ出迎えに行く。
しかし、待ち受けていた顔は私たちが望むものではなかった。
「誰?」
「オレ、二年の竹原って言うんだけど。ここは千沙山柊喜君の家であってる?」
二年生の先輩だった。
凛子ちゃんに付き纏ってる、苦手な人。
なんでここにいるんだろう。
周りを見ると、どうするのと言わんばかりに私に視線が集まっている。
そっか。
今は柊喜いないし、私が家主みたいなもんだもんね。
「どうしてここに?」
「いや、ちょっと用があってさ。……で、千沙山は?」
「今はいません」
「まじかぁ」
私の返答に彼は困ったような顔を見せた。
と、そこですずが声を漏らす。
「あ、思い出した。最近しゅうきに絡んでる奴だ」
「……オレ、一応先輩だからさ。”奴”ってやめね? あと昼に見た顔くらい覚えてくれよ」
「何しに来たの?」
私が聞きたかった事をグイグイ攻めて聞いてくれるすず。
そんな問いに先輩はちょっと考えた後に、笑いながら口を開いた。
「いやさ、その……あいつきめーじゃん? 男子なのに女子部活に入り浸ってハーレム気取りかよって。この前の放課後も女の後ろに隠れてダサかったし。そんな奴にコーチされるの可哀想だよなーって」
「要するに、千沙山くんに部活をやめろって言いに来たんですか!?」
「まぁそんなとこだよ。唯葉たん」
うげっと嫌そうな顔をする唯葉ちゃん。
そして多分、それ以外の三人はもっとひどい顔をしていたと思う。
なにこの人。
なに言ってるんだろう。
あのしゅうきがハーレム気取り?
私達の関係性を知っていたらそんなことは思わないはずだ。
現に柊喜はすずの好意にも、姫希の好意にも大した関心を見せてないし。
ただ真面目にバスケを教えてくれているだけだ。
文句を言って追い返そうとした。
しかし、私が口を開く前に先輩は尻もちをついていた。
いや違うね。
自然にこけたわけではない。
すずが突き飛ばしたんだ。
「どっかいけ」
「え、いや……」
「意味わかんないからお前のこと嫌い」
「えぇ」
姫希以上にドストレートな物言いを聞いて、私は言おうと思ったことを飲み込んだ。
多分姫希も同じだと思う。
私達の拒絶に耐えられず、帰ろうとする竹原先輩。
そんな彼に私は一つだけ訂正したくて言った。
「竹原先輩、一つ勘違いしてますよ」
「え?」
「柊喜はダサくありません。この前何も言い返さなかったのは私達のためです」
あそこで何かを言い返せば、状況はもっと面倒になっていただろう。
というか、中学時代の柊喜はよく言い返して揉めていたし。
何かを反論すれば問題が大きくなることを知っているから、敢えてやられ役を買ってくれただけだ。
私の言葉を聞いた竹原先輩は、何を言っても無駄だと思ったのか、そのまま帰って行った。
「相変わらずキモいわね」
「恐らく、宮永君に何かを言われていたんでしょう。大体いつも命令されてますし」
「だからなんだって言うんですか。言ってる事も最低だし、同情の余地なんてないのよ」
「それは確かにそうですが……。面倒な事にならなきゃいいですね」
唯葉ちゃんの珍しく神妙な顔で放たれた言葉に全員が息をのむ。
「しゅうき、まだかな」
いや、すずだけはいつも通りだった。
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