第68話 一緒に寝るのは

 全員で風呂を済ませると、時刻はかなり遅くなってしまう。

 女子の風呂というのは思った以上に長いのだ。

 それが五人もいるんだから仕方ない。


 と、いうわけで残すところは就寝である。

 明日も勿論朝から部活があるので、夜更かしは厳禁だ。


 ちなみに今回はあきらとのお泊り初日と違い、きちんと客用布団を用意した。

 洗って天日干しまで済ませてある。


「寝る場所についてですが」


 リビングでも横一列に五人を整列させ、俺は指示を出す。


「寝る場所は客間とこのリビングになります」

「え?」


 俺の言葉に声を漏らしたのはあきらだった。

 彼女は首を傾げる。


「柊喜はどこで寝るの?」

「勿論自室だけど」


 それ以外にどこがあると言うのだろうか。

 しかし、そんな俺にあきらは唸る。


「三部屋も冷房つけるの? 流石にそれは……」

「まぁ、金銭的にしんどいのは事実だけど」

「夜はまだ寝苦しいからねぇ」


 九月に入ったと言っても、夜はまだ暑い。

 俺の部屋だけ冷房完備と言うのはあんまりだし、だからと言って女子を俺の部屋に寝かせるのも色々問題だろう。

 そう思ったうえでの判断だった。

 しかし、あきらはあっけらかんと言う。


「柊喜の部屋と客間だけでいいじゃんっ」

「……お前は良いかもしれないが、他が」

「ち、千沙山くんの部屋ですか!?」


 すぐに声を上げたのは唯葉先輩だ。

 この前と違って同じベッドで寝るわけではないが、男と同じ部屋で寝るのは怖いはずだ。

 勿論、俺にやましい気持ちは無いが、相手には知り得ないことだし。


「客間に寝れるのは最大三人が限界だから、二人は俺の部屋に寝ることになるんだぞ?」


 俺の言葉にみんなが顔を見合わせる。


「わ、わたしは……」

「僕は全然いいけど」

「すず、しゅうきと一緒に寝たい」

「あんた達はダメよ。夜這いしそうだもの」

「私は慣れてるから柊喜の部屋で良いよ」


 五人はぶつぶつとそんな言葉を交わしながら、しばらく話し合う。

 意外と嫌じゃないみたいだ。

 それだけ男として意識されていないという事か。

 いや違うな。

 すずと凛子先輩が不純過ぎるだけだ。


 そして、ややあって俺の方を振り向いた。


「姫希と私が柊喜の部屋で寝るねっ」

「本当に良いんだな?」

「……よろしく」

「お、おう」


 いつも俺を警戒している姫希を一瞬意外に感じたが、思い出す。

 こいつは俺の寝室に入った事があるのか。

 その他にも、すずと凛子先輩はちょっと危ないし、唯葉先輩は恥ずかしそうだから無難な選択と言えよう。


 何度でも言うが、当然俺は手を出す気なんてさらさらない。

 あるわけがない。

 紳士なのだ。


 と、そんな姫希にジト目を向けているのはすず。

 余程俺の部屋で寝たかったらしい。


「姫希、しゅうきのこと狙ってる」

「心配しなくても寝首を搔いたりしないわよ」

「ってかすずはダメだよっ。柊喜の隣で下半身裸で寝る気?」

「もちろん」

「このド変態ッ! あんたの方が大概よ!」

「ん。別に見られても困らない。大歓迎」

「……」


 すずの言葉を聞いて姫希は絶句していた。

 まぁ確かに、ここまで照れもせずに好意をぶつけてくるのは凄い事だ。

 あまり長い付き合いではないはずだが、すずのことは俺も大体理解してきた。


「じゃ、布団敷いてきますね」


 俺が部屋を出ようとするとき、凛子先輩が姫希に耳打ちをした。

 すると姫希の顔がすぐに真っ赤になる。

 ……何を言っているのやら。




 ◇




「お邪魔します……」

「おう」

「あはは。なんか笑えるね」


 就寝時間、俺の部屋に入ってきた姫希はガチガチだった。

 こいつも嫌々だろうし、なんだか気が引ける。

 俺だけリビングのソファで寝よっかな……。

 そうだ、別に俺が涼しい部屋のベッドで寝ようなんて、思いあがったことを考えなければよかっただけなのだ。


 そうと決まれば、この前みたいに適当な嘘をついて抜け出そう。


「ま、まぁ一度はこの部屋で一晩明かしたことあるし? 別に平気よ」

「……私も何度も柊喜とは一緒に寝てるもん」

「ッ! ……お、幼馴染だものね。そのくらいは、当たり前ね」

「そう。幼馴染だもん」


 なんだろう、ちょっと二人の雰囲気がおかしいんだが。

 疲れたのだろうか。

 二人とも動き回ってたしな。


「ほら、二人とも寝て良いぞ。俺は下に行ってるから、気兼ねなく眠れるだろ」


 変な嘘はつかないことにした。

 しかし、そのまま部屋を出ようとした俺の腕を掴む姫希。


「え?」

「……ここで寝ればいいじゃない」

「いや、お前が気にするだろ?」

「気にしないわよ。さっき言った通り君の寝顔を一晩中眺め続けたこともあるのよ? 今更気にするわけないでしょ」

「それこれとじゃ話が違うだろ」

「ふーん。もしかしてあたし達が横で寝てたらドキドキしちゃうのかしら? やっぱり変態なのね。そんなのにコーチされる身になって欲しいわ」

「……くそ」


 卑怯だ。

 そんな言い方をされると、引くに引けない。

 曖昧な表情をしているあきらを見て、俺はため息を吐いた。


「もう文句言っても知らねえぞ。寝るからな」

「ふん! 好きにすればいいんじゃないかしら。ねぇあきら?」

「え? うん。そうだよ。柊喜の部屋だし」


 二人に勧められたので、俺はベッドに横になる。

 と、満足したのか、二人もそのまま布団に入った。


 なんだかよくわからんが、まぁいい。

 明日も部活だ。


 俺はそのまますぐに眠りに落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る