第67話 ドキドキお風呂

 夕食を食べ終え、全員で片付けをした後、俺達はリビングで疲れ果てていた。

 時刻は既に九時近く、一気に夜を感じる。


「アイス食べたい」

「でも買いに行くのダルいわ」


 すずの言葉に溶けたような返事を返すのは、ソファに座ってぼーっとスマホを眺める姫希だ。

 事実、全員似たような感じで各々ダウンしているので、買い物に走れる奴なんて残っていない。

 言い出しっぺのすずすら体操着のズボンに手をかけ、俺の前で寝転がっている。


「……ズボン脱ぐなよ」

「パンツは?」

「ダメに決まってんだろ」


 何を考えているんだこいつは。

 っていうか、家ではいつも下だけ裸なのか?

 同居人が不憫でならない。


「お風呂入らなきゃ」


 あきらの言葉でシーンと静まり返る。

 全員の視線が俺を向いた。


「え、どーやって?」


 聞く凛子先輩にあきらが答える。


「ここのお風呂広いから三人ずつとかで良いんじゃない?」

「え?」


 誰かの声と共に、俺への視線が強くなった。

 だから俺はコホンと咳をして、口を開く。


「三対二で別れればいいだろ。俺は勿論一人で入る」

「当たり前よ」

「えー、いいの?」


 姫希と凛子先輩から声が上がる。

 そして目の前のすずが起き上がった。


「すず、しゅうきと入りたい」

「はぁッ!? 何言ってんだお前!」

「ん? ……ダメ?」

「当たり前だろうが」


 何を言ってるんだこいつは。

 いや、正直言いそうな予感はあったが。


「そう言えばこの前あきらは泊ってたんだよね? 一緒にお風呂入ったの?」

「えー、どう思いますかっ?」

「入ってねえし。誤解を生むようなノリに乗るな」

「へあっ」


 隣に座っていた幼馴染の頭を鷲掴みにすると、変な声で鳴かれた。

 と、そんな俺たちを他所に唯葉先輩は考え込む。


「うーん。真面目な話、三対二で別れるなら体の大きさもありますし、わたしと姫希とあきらでしょうか」

「そうだね、唯葉、後輩たちに背中を流してもらいなよ」

「それは名案です!」


 先輩の二人の会話に、想像する。


 ちっちゃな唯葉先輩の背中を洗ってあげるあきらと姫希。

 うーん。妹か子供の世話をしている構図にしか思えない。

 威厳ある先輩の背中じゃないもんな。


「しゅうき、今えっちなこと考えてる」

「考えてねえよ。唯葉ちゃんが背中を流してもらう所を想像したが、子供の世話をしているようにしか思えなかった」

「ちょっと待ってください。何故わたしのお風呂シーンの想像がそんな感想で終わるんですか? 女子高生ですよ? もっとこう、ドキドキとかは……」

「ははっ」

「あー! 笑いましたこの男! 女の子としてのプライドを傷つけられました! ここは一緒にお風呂に入ってドキドキさせなきゃ気が済みません!」


 その後、喚く先輩はあきらと姫希に連行されて風呂場へ消えていった。


 リビングには俺と凛子先輩とすずの三人が残される。


「で、どうする? じっさいまとめて入った方が水道代もお得じゃないの?」

「仮にそうでもやめておきますよ」

「あれ? ドキドキしちゃう?」

「……何をふざけた事を」


 テキトーに誤魔化しつつ、俺はため息を吐いた。

 正直、実際に一緒にお風呂に入ったら正常でいられるわけがない。

 いくらコーチとして線を引いていても、相手は同じ高校生の女子だ。

 あきらと違って長い付き合いでもないし、俺だって男である。

 興奮しないわけがない。


 それに、今日の凛子先輩は少しあれだ。

 普段からドキドキさせられることは多かったが、いつもよりもさらに胸が騒ぐ。

 絶対に一緒にお風呂なんて入れない。


 俺の無言に凛子先輩も黙り込んだ。


「りんこちゃん、髪解いて」

「はいはい」


 子供みたいにすずが凛子先輩に寄りかかった。

 一応すずの方が身長が高いので面白い光景である。

 優しく、子供の世話をするように髪に触れる凛子先輩、気持ちよさそうにぼーっとしているすず。


 うちの部活には子供が二人いるみたいだ。

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