第21話 見られた

 目を覚ますと、陽の光が差し込んでいた。

 ベッドの上にいることを確認し、そして同時にやってしまった……という絶望を感じる。

 俺、昨日はあの後どうしたんだっけ。


 一応服は着ているし、ベッドにいるし、どうにかできたのだろうが。

 それにしても姫希には迷惑をかけたな。

 まさか体調を崩してダウンするとは。

 記憶がないため何もわからないが、変な事をやらかしてなければいいな。


「マジですまん……」


 一人ボソッと呟いてみる。

 するとすぐに。


「なによ。あたしに言ってるわけ?」

「……え?」


 幻聴が聞こえた。

 声のした方向を見ると、髪を下ろした女子高生がそこにいた。

 目の下には薄っすらクマがあり、いつものような覇気はない。

 だがしかし、そいつは昨日の終わりまで一緒に居た奴に違いなくて。


「姫希……?」

「熱計りなさいよ」

「お、おう……」


 体温計を差し出され、俺は素直に熱を計る。


「ん。三十七度。だいぶ引いたわね。ゆうべは三十九度まで上がってたのよ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 まだ若干重い頭で俺は考える。


「お前……なんでここにいるんだ? 今何時だ?」

「君が昨晩お風呂場で倒れてたから帰るわけにもいかなかったのよ。そして今は朝の九時」

「ずっと居たのか!?」

「ッ! ……うるさいわね。仕方ないでしょ」


 こめかみを抑えて低い声で言う姫希。


 気付けばおでこに冷えピタが張られていた。

 これは夜通し看病してくれたってことか?


「マジで助かる」

「いいわよ。ただまぁ、ゆうべお風呂場から物凄い音が聞こえた時は焦ったわ」

「それはすまん……って待てよ」


 今現在、俺は自宅二階の自室にいる。

 いつもの部屋着も装備している。

 ……え?


「俺、どうやってここまで?」

「……あたしよ」

「え?」

「あたしがお風呂場で倒れてる君をここまで連れてきたの! 体拭いてあげて、服着せて……ってあぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁ!」


 顔を抑える姫希と共鳴した。

 要するに俺はこいつに昨晩全裸を見られたわけで。


「か、勘違いしないで! 別にまじまじと見てはないわよ! そもそも君は覚えてないかもしれないけれど、ちゃんと前は自分で拭いてたし、下着も自分で着てたわ!」

「それはよかったです!」


 体調不良の熱ではない熱気が体に広がっていく。

 と、姫希はそんな俺に意味の分からない笑みを張り付けた顔を向けた。


「ふん。あたしの下着を見た罰ねっ!」

「意味が分からん! ……って頭いてぇ」

「もう、安静になさいよ」


 起こした状態を無理やり倒され、布団を掛けられる。


「……色々悪いな」

「ご飯奢ってもらって、シャワー使わせてもらって、謝りたいのはこっちの方よ。ごめんなさい」

「良いんだよ」


 お互いヒートアップした頭が冷えた。

 いつもは高飛車で余計な事ばかり言ってくる姫希の珍しく心配するような顔を見て、俺は思わず聞いた。


「お前……寝てないのか?」

「まぁね。でもいいわ。あたしのシャワー待ってたせいで体冷やしたんだから」

「……気にすんなよ」


 ふぅとため息をつく俺に、姫希はニコッと笑う。


「じゃあ何か作ってあげるわ。冷蔵庫勝手に見ちゃっていい?」

「好きにしろ。そもそもうちの冷蔵庫の管理はあきらがやってる」

「本当に仲良しね。付き合っちゃえばいいのに」

「馬鹿言うな」


 あきらは本当にそういうのじゃないんだ。

 それに、一応まだ傷心中だし。


 しかし、あいつの名前を出したことでふと思った。


「なぁ姫希、なんであきら呼ばなかったんだ?」


 俺とあきらの家が隣同士であることは説明してある。

 わざわざ姫希が看病することはなかったはずだ。

 あいつを呼べば話は解決する。


 と、そんな俺の問いに姫希は顔を赤らめた。


「お風呂で倒れてる君を見た時は気が動転しちゃってて。服を着せた後にあきらを呼べばよかったことに気付いたわ。だけどもう……」

「もう、なんだよ」

「……君と一緒に居るところを見られて、変な勘違いされるのはごめんじゃない」

「確かに」


 そもそもの問題で、何故姫希が家に居たのかというところから説明しなきゃいけないしな。


 ただまぁ精神的ダメージとしては、幼馴染に裸を見られた方がマシだった。


「じゃああたし、何か作るわn――」


 タイミングとは悪いもので。


 姫希がそう言って部屋を出ようとした矢先、インターホンが鳴った。

 それと同時に、換気のために開けていた窓の外から声が聞こえる。


「ねー、柊喜ー! 朝ごはん作りに来たよーっ! 一緒に食べよーよ!」


 万事休すか。

 俺はゆっくりとベッドわきに座る姫希と目を合わせる。


「ははは。終わったな」

「ふふ、そうね……。最悪だわ」


 さて、どう誤魔化したものか。

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