第13話 夜中の連絡

「はぁ~、どうしたものか」


 夜中零時丁度。

 俺は自室の机に頬杖をついて頭を悩ませていた。

 新品のノートには『コーチングノート』とタイトルだけ記されており、中身は白紙のままだ。

 あの人達の今後について考えなければ。


 あきらの母親がくれたオレンジの剥き身をつまむ。


 「あ、これ甘くておいしい。当たりのオレンジだな」


 こういうのって自分で種を取ったり皮を剥いたりするのは面倒なため、なかなか食べる機会はないが、他人にやってもらうと喜んで食べられる。

 ちなみに今回はあきらがうちのキッチンで剥いてくれた。

 その際につまみ食いをしているのもしっかり見た。


 現在部活に精力的に参加してくれているのは四名のみ。

 バスケは五人制なため、このままじゃ試合への出場すらできないが、まぁその問題は追々解決するとして。


 先輩二名に同級生二名。

 基本的に身長が低めで、技術も拙い。

 褒められるような共通項は容姿くらいだろうか。

 何故かあきらの言う通り、本当にみんな可愛かった。


「って、バスケはミスコンじゃねえんだよ」


 顔が良くたって点数は入らない。

 審判の贔屓はもらえるかもしれないが、そんなの僅差にでもならない限り効果はない。

 そもそも審判の贔屓を頼りにしている時点でダメだ。


 と、そこで帰り際に俺が聞いた質問と、彼女らの答えを思い出す。


『みんな、バスケは好き?』


 シンプルな問いだったが、珍しく全員一致で頷いて見せた。

 下手くそなだけで、四人のバスケモチベは死んでいないらしい。

 これがせめてもの救いであり、今後の希望へ繋ぐ唯一の光明だ。


 なんて考えていると、肘の下に置いていたスマホが振動する。


「なんだ……?」


 こんな夜更けに誰が連絡をしてきたのか。

 スマホを見ると、驚きの人物からのメッセージだった。


「み、未来?」


 元カノからの連絡である。

 短い一文で『今話せる?』とのことだ。

 意味が分からない。


 どうしたのだろうか。

 昔から自分の暇な時にだけ突然通話をかけてくるような奴だった。

 今日もきっと深い意図はない。

 どうせ友達が全員寝たから、唯一反応しそうな俺に連絡してきただけだろう。


 だがしかし、通話ボタンをタップしようとして思いとどまる。

 思い出せ千沙山柊喜。


『デカいから邪魔』

『お前で十分だっての』

『もーいらない』

『先月くらいから彼氏いるんだよね』


 やっべ。

 ちょっと思い出しただけで寒気がしてきた。

 なんでこんな非道な奴の話し相手になんてならなければいけないのか。


 俺はよくいる心の広い優男ではない。

 元カノだろうと何だろうと、嫌いなものは嫌いだ。

 金輪際関わりたくもない。


「今更何の用だって言うんだよ……」


 つい自嘲気味な苦笑が漏れる。

 あそこまで大々的にフッておいて、なおかつ周囲にバラしまくって、互いに顔を合わせて話すこともなくなっていたのにな。

 マジで何を考えているのかわからない。


 もしかすると、さらに俺を傷つけて遊ぶつもりだろうか?

 実は付き合ってたこと自体、罰ゲームでしたっ!的な。

 うん、仮にそうでももはや驚かない。


 だがしかし、傷つかないかどうかは別だ。

 我慢できるだけで心は痛いんだよ。


 ってなわけで未読スルーすること七分と数十秒。

 いわゆる追いLINEってやつが来た。


『寝てるかな? 夜遅くに声かけてごめんね。急に声聞きたくなっちゃった』


 うーん。


「急に優しくしたって、その手には乗らないんだからねっ!」


 ツンデレ風にスマホに言ってみるが、訪れるのは沈黙、鳥肌。

 二度とこんな口調で喋らないと心に決めた。


 なんて冗談はさて置くとして。

 絶対に連絡は返さない。

 関係が終わったとかそういう以前に俺は怒っているのだ。

 根に持って何が悪い。


 せめてものお気持ち表明で、既読だけつけてやった。

 と、すぐに。


『あれ? 見た? なんで反応しないの!?』


 飛びつくようにメッセージを重ねる元カノに、意地の悪い笑みが零れた気がした。

 俺、最低だな。


「寝よう」


 こんな茶番に付き合っている暇はない。

 俺にはやるべきことが山積みなのだから。


 ふと夕方に見た四人の輝く汗を思い出す。

 彼女らを見習って、俺も前を向くとしよう。

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