第12話 目標決め
高校生だろうと何だろうと、スポーツをやる上でまず大事なのは方向性だ。
言い換えると目標。
正直スポーツ以外の勉強でもなんでも、物事に取り組む際には真っ先にやるべきこと。
それが目標決めである。
いくら技術が上達しようと、結局最後は精神論。
辛いときに支えになるのは小手先のテクニックではなく、目標達成への執念だから。
「まずは目標決めだ」
俺の言葉に、全員はきょとんとする。
「とりあえず、今までみんなはどんな目標でやってきたんだ?」
「目標かぁ」
「考えた事なかったわね」
「上級生引退しちゃってから人数も揃わないし」
「いえ、やはり一回戦突破でしょう!」
各々曖昧な事を言う。
唯一キャプテンの宇都宮先輩だけは具体的な目標だったが、一回戦突破など志が低すぎて話にならない。
「前の公式戦はどのくらいの成績だったんだ?」
「県でベスト16でしたね」
「え、結構すごいじゃないですか」
平然と答える宇都宮先輩に驚く俺。
大して人口の多い県ではないが、それでも県ベスト16は中々の成績だ。
三回くらいは勝たなきゃ到達できないはずだし。
と、俺の反応にみんな苦笑を漏らす。
「三年生が強かったんだよ」
「今のメンバーでスタメンだったのは唯葉先輩だけだもの」
「わたしも結構足引っ張っちゃってましたけど」
「で、今はあたしみたいな戦力外しかいないってわけ」
「なるほど」
髪をいじりながらつまらなそうに言う伏山。
確かにさっきのレイアップを見ていても思ったが、下手くそだった。
だがしかし、俺から言わせればあきらと大差ない。
どんぐりの背比べだ。
「とりあえず実力が分からないと何とも言えないしな。ハーフコートで二対二の試合をしよう。それを見て考える」
俺はひとまずそういう判断を下した。
実戦の動きを見ない事には判断ができないからな。
◇
三十分後。
「……マジか。これほどとは」
「聞こえてるんですけど? コーチさん」
一通り動きを見た俺は絶句していた。
あきらから聞いた話では、四人全員中学の頃からの経験者で、それなりにキャリアがあるとのこと。
それを踏まえた上で改めて、頭を抱えるしかなかった。
「そんなに酷いかなぁ?」
「酷いっす」
「柊喜君、思ったより先輩にも辛辣」
ジト目を向けてくる荒い息の城井先輩。
彼女が一番の問題児かもしれない。
身長に恵まれているため、そこそこ動けてはいるがシュート、ドリブル、パス全ての技術がずば抜けて低い。
これはかなりスキル面の練習が求められそうだ。
伏山とあきらは同レベル。
ややあきらの方が上手いが、センス的なモノでは伏山の方が勝っているように思える。
IQというものだろうか。
まぁあきらは根本的に頭が良くないため、当然と言えば当然だ。
そして宇都宮先輩に関しては、あまり文句の付け所がなかった。
経験値もあるし、技術もあるし、身体能力もある。
この四人の中では、という狭い世界の話に限るが。
「よし、目標は決まった」
再び扇風機の前でだらけている女子達に近づき、俺は仁王立ちする。
「えっと、朝野先輩」
「は~い」
マネージャーの先輩にホワイトボードを用意してもらう。
俺はそこにでかでかと文字を書いた。
曰く。
「『全国大会出場』……?」
「君、何言ってるかわかってる?」
「勿論だ」
眉を顰める伏山に俺は頷いた。
「確かに今の実力じゃ県の一回戦突破すら不可能だろう。だがしかし、何も試合は一度きりじゃない。要するにこれから一年で県大会優勝しろって話だ」
全国大会があるのは夏のインターハイと冬のウインターカップのみ。
そしてその出場条件は県大会の優勝校であること。
「直近は再来月の新人戦。年始の地区大会に春の春季大会、そして夏の県大会と最後のウインターカップ予選ですね! わたしたち二年生が参加できるのはそこまでです」
「そう、でも五回もチャンスがある。だからこの『全国大会出場』はこのメンバーで達成する最後の大きな目標だ」
目標は高く掲げる。
何も始めっから無理難題を叩きつけているわけではない。
いや、達成してくれるのが一番良いんだが。
と、俺の言葉に伏山は不安色を漏らす。
こいつは自分の実力にかなりコンプレックスがあるみたいだしな。
「伏山さん。別にそんなに悪いプレイじゃなかったぞ」
「……ほんと?」
「あぁ。この中じゃ大差ない」
「なんか一言余計ね。あと姫希で良いわ。君の苗字呼びキモいから鳥肌立っちゃう」
「お前も一言余計なんだよ、姫希」
お前が言うな選手権堂々の一位だ。
「ん~、そりゃ確かにまだ五回もあるから可能性はあるけど、いきなり全国ってか県大優勝はきつくない?」
城井先輩は未だ自信が無さそうだ。
確かに技術的には一番下手だったし、彼女の気持ちが分からなくもない。
俺は励まそうと口を開く。
が、そこにあきらが割り込んできた。
「頑張りましょう。三年生の意志を無駄にしちゃいけないし」
「それもそうだね」
「あたしにできるかしら」
「大丈夫です! わたしも頑張って引っ張りますし、なんと言ってもコーチは千沙山君ですから」
「あれ、唯葉先輩こいつと知り合いだったんですか?」
「実はね」
意外そうに俺を見る伏山に肩を竦める。
なにはともあれ、あきらの言葉で若干みんながやる気を出した。
少しは運動部っぽい顔になったじゃないか。
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