ランキングに掲載されている作品で、カジュアルさと小説としてのクオリティがここまで高いレベルで同居しているものは非常に少ない。
テンポ、登場人物、設定、展開、どれをとっても違和感がなくまとまっており、読んでいてとても心地よい。
特に魅力的なのは、政治的な展開や駆け引きの場面が納得感のある形で描かれることだ。
こういう場面は蔑ろにされリアリティを欠いたり、登場人物が非常に頭が悪い存在に見えてしまう傾向にあるが、ここではむしろ物語の重要なピースとして破綻なく描かれている。
刀を作るという一番楽しい場面に刺激を与える政治、というバランス感を丁寧に保つ技術と感性に驚く。
この先の展開が非常に楽しみだ。
今のところ、ではありますがとにかく登場人物の大半に好感が持てる物語。
常人に理解しがたい一芸に秀でているがそれ以外が微妙な人物と、視野の広さに秀でた常識人の男女ペアの物語、というのはそれこそ昭和から平成頃のマンガやラノベあたりでよく見た組み合わせですが。
本作はそこを異世界の刀匠の男と女商人で描く中で、刀匠の男を「刀作り以外は不器用だが愛と気骨のある人物」、女商人を「打算的で大胆だが時折可愛らしい側面も見せる人物」として描いていて、その職業的性質の強い対比と、その凸凹ぐあいから生まれるコンビとしてのやり取りの心地よさが、とにかく読んでいて楽しい作品です。
また刀匠の元に訪れる面々も、それぞれ一癖二癖ありますし、たまにややアブノーマルな気配もしたりしますが、実に人間味にあふれた人物が多いです。
そして、そんな彼らの織り成すドラマもまた、最近のWeb小説にありがちなご都合主義ほどの極端な万能感も、読者が読む手を止めるほどストレスを感じる展開もない、実に小気味よい展開にまとまっているのも好印象です。
最近の粗製乱造気味のご都合Web小説に飽きた、異世界モノ好きの方に是非お勧めしたい一作です。