第2話 告白

また早川が走って追いついてきて私の前に立ちふさがった。

ち、近い。だから立ち位置が近すぎるってば。このバカ。


「なに? まだ何か言いたいことがあるの?」

「て、手紙を読んでくれよ」

早川が震える手で便箋のシワを伸ばしながら差し出した。


チラッと見ると、字数も行数も少ない。


「何が書いてあるか知らないけど、わたし宛なんだよね?」

「もちろんだ」

「じゃ、今ここで内容を言って。そのほうが早いから」

「でも、1週間もかかって書いた手紙なんだぜ」

「たった便箋1枚なのに?」

「1枚だけど、内容は、その、俺の想いがいっぱい詰まってるんだ」

「じゃ、ここでソレ読んで。」

「ちょっと待てよ。そんな罰ゲームみたいなことをやらせるのか?」

「今なら誰もいない。さっさと読めば誰にも聞かれずにすむけど?」


私はいちおう廊下の前後を見渡して言った。


「字数が少ないところをみると、ポエムかなんかでしょ?」

「まあ、そんなようなもんだ」

「じゃ、すぐ読めるよね」

「そういう問題じゃないだろ」

「そ。じゃ、いい。さよなら」


私が歩き出そうとしたら、早川がまた立ちふさがった。


「まてまて。わかった。わかったから待ってくれ」

「あんまりしつこいと大声出すから」

「わかった。とにかく待ってくれ」

「早くして。わたし、これでも忙しいの」


嘘だった。ほんとはおなかがすいてただけだった。


早川は大汗かきながら、震える手で便箋を広げて読み始めた。


「キミは野に咲く1輪の真っ赤な野ばら。ボクは」

「ストップ」

「え?」

「野ばらは真っ赤じゃないし、普通は1輪だけ咲くことはない。ノイバラとも言う。つまり、私はトゲトゲがあって行く手をはばむ邪魔なイバラのような女ってことよね?」

「そんなつもりはない。誤解だ。ごめん。知らなかった」

「もういい。途中はカット。肝心の部分だけ読んで」

「わ、わかった。満天の星空の下でボクは誓う。キミのことを」

「ストップ」

「なんだよ。まだ終わってないぜ」

「満天の『天』と星空の『空』がかぶってる。正しくは『満天の星の下で』」

「そうなのか。でも、言いたいことはわかるだろ?」

「ぜんっぜん、わからない。わたし帰る。そこどいて」

早川は私の剣幕に押されたのか、脇によって道をあけた。


ふふん。早川ごときが私に告白しようなんて10年早いわ。5年くらい浪人して東大に合格してから出直して来なさいよ。私は振り返ることなくスタスタと出口に向かった。


下駄箱に上靴を入れて、学校指定の靴に履き替えた。はあ。時間をムダにした。おなかもへった。告白するならもっとカッコよくやりなよ。ほんっとにバカね。


私が校門を出ようとしたとき、後ろから早川が叫んだ。


「シノダサユリー! オレはー! オマエが好きだー!」


私は校門の手前で立ち止まった。あのバカ! あんなデカイ声で。ナニを血迷ってんのよ!学校中どころか近所中に聞こえるじゃない!


「オレはー! シノダサユリが好きだー! 世界一大好きだー!」


早川のバカ。大バカ。ヘンタイ。何回叫んだら気がすむの?


私はムカついて、早川のほうを振り返った。




次の瞬間。早川と目が合った。


早川は真剣な顔で私をじっと見ている。


心臓が勝手にドキドキしてきた。


顔がカッと熱くなった。






なんという不覚。私は恋に落ちたのだった。






(おわり)

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放課後の告白 (全2回) 黒っぽい猫 @udontao123

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