第20話

「詩帆さ、彼氏できたん?」

それは唐突に聞かれた。

「へ?」

あまりに唐突で、驚いて詩帆は口に運ぼうとしていた唐揚げをポトリと落とした。

「そうなのか?」

母の問いに素っ頓狂な声で返事をした詩帆を更に問い詰めるように父が言う。

「いや…彼氏っていうか…」

口ごもる。

言っていいものだろうか。彼女ができたのだと。

でもここで父と母に付き合いを反対されたら、誰に何を言われるよりも落ち込んでしまう。

箸を止めて口ごもる私に父と母の視線が向けられている。

「な、なんでそう思ったの?」

重い沈黙を破るように母に聞く。

「なんでって…あんたやたらスマホ気にするようになったし、クリスマスとかのイベント事では帰りが遅くなったし、彼氏でもできたんかなぁと思って。」

そう答えながら何事もなかったかのように母は箸を進める。

「そうなのか!?」

父だけが重大そうに反応する。

一人娘に彼氏というのは、父にとっては重大なことらしい。

「そ、そうかなぁ…」

とぼけるように返すが、思い当たる節はある。

毎日雫と連絡を取っているし、返事を心待ちにしている。

やっと会える日には少しでも長くいようと夜遅くまで一緒にいて帰りが遅くなりがちだ。

「そうよ。」

とぼける様子も効果なく、母はあっさりと答える。

「彼氏ができたのか!?」

この状況で一番うろたえているのは父だ。

「彼氏ちゃうよ〜。女の子の友だち。」

正直に言うか少し悩んでそう答えると、父はあからさまに安堵してみせた。

「なんや、友だちか〜。」

「うん、そう。すっごく気の合う仲のいい友だちができたんよ。」

正直、父と母に彼女が出来たことを言わないのは心苦しさもある。

だけど、それ以上に否定的に言われたくないと思ってしまった。

「ふぅん。女の子の友だちね…。まあ、遊び出かけるんもいいけど、あんまり遅くならんようにね。」

意味深長な様子で母はそう言うと、いつもと変わりない様子で食事を続けた。

その持たせた含みの意味を今はまだ見ないふりをした。

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近くて遠い君(百合注意) あいむ @Im_danslelent

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