第19話

そこはカフェ&バーというだけあって、とてもオシャレな雰囲気のお店だった。

バーカウンターの壁の棚には様々なお酒が並んでいる。

木製の椅子とテーブルは敢えて不規則に並べられている様子で、それが更にオシャレな雰囲気を醸し出していた。

「こんなお店あるの知らなかった…」

店員に案内された席に座ると、キョロキョロと周りを見回しながら詩帆は言った。

「ふふふ。でしょ?」

雫が得意げにそう言う。

だが、実のところ雫もこのお店に来るのは初めてだ。詩帆の誕生日を祝うに相応しいお店を毎日スマートフォンと睨めっこをして調べに調べた結果行き着いたのがこのお店だった。

得意げな顔をしながら雫は心の中でそっと安堵していた。詩帆が来たことがないお店でよかった、と。

「それで、何がいい?」

メニューを詩帆の方へと向けながら雫が尋ねた。

服をいっぱい買ったがそれでも余裕なくらいお金はたくさん用意している。

詩帆が何を食べたい、何を飲みたいと言っても準備は万全だ。

「わぁ〜どれも美味しそうだね…」

所々写真が添付されたメニュー表はそれ自体もとてもオシャレで、豊富なメニューと美味しそうな写真に詩帆は悩ましげに言った。

事前に調べていてもどのメニューもとても美味しそうだったことを雫は思い出していた。

「悩むなぁ…」

そうだと思った、と雫は心の中でつぶやく。

食べたいものが一つや二つではなく絞りきれないことを雫は予想していた。

「じゃあさ、詩帆ちゃんが食べたいもの頼んでわけっこしようよ。」

「え?いいの?雫ちゃんも食べたいものあるんじゃ…」

「いいのいいの!だって今日は詩帆ちゃんの誕生日でしょ?」

遠慮する詩帆に雫が明るくそう言うと、詩帆は頬を綻ばせ嬉しそうにメニューに向き合った。

「じゃあどれにしようかな〜…」

それでもなかなか頼みメニューを絞りきれず、悩みに悩んだ結果、詩帆はピザとパスタとサラダとお店の自慢の牛ほほ肉のシチューを頼んだ。

料理が来るのを待つ間、詩帆は雫に改まった様子で声を掛けた。

「雫ちゃん、今日はありがとうね。」

「ん?何が?」

改めて礼を言われ、雫は不思議そうな顔をする。

「全部だよ。お洋服も、このお店に連れてきてくれたことも、好きな物頼ませてくれたことも…全部、ありがとう。」

「そんなん…うちが詩帆ちゃんのことお祝いしたいだけやもん。お礼言われることちゃうよ。」

雫は至極当たり前といった様子で答える。

「それに、まだ終わってへんよ。ディナーもこれからやよ。」

「そっか。そうだね。」

二人で微笑みあっていると、ちょうど料理が届いた。一つ届くと次々に料理はやってきて、テーブルの上がいっぱいになった。

「それじゃあ詩帆ちゃん、改めて、誕生日おめでとう。」

「ありがとう。」

二人でグラスを傾け合い、乾杯した。

そして「いただきます」と言って料理を食べ始める。

料理は写真で見て想像していた以上に美味しかった。特にお店の自慢の牛ほほ肉のシチューはお肉がほろほろと解けて柔らかく、シチューも濃厚な味わいだった。

「美味しいね。」

「うん、ほんとに美味しいね。」

二人で微笑み合いながら、料理を分け合いながら食べていく。

雫は心の中でこのお店にして本当によかったと嬉しく思っていた。

料理を食べ終わると、デザートの時間。

そこはもちろん、誕生日ケーキだ。

二人が料理を食べ終えると、店員が花火をつけたケーキを運んできた。

雫は予約の時点で食べ終えたタイミングを見計らってケーキを持ってきて欲しいとお店に頼んでいたのだ。

「わあ〜!」

運ばれてくる誕生日ケーキに詩帆も嬉しそうな様子だ。

ケーキは定番ではあるがいちごのケーキにした。円形のいちごのケーキの上で花火がキラキラと光っている。

「誕生日おめでとう。」

詩帆の目の前にケーキが運ばれてくるのを見ながら、雫は改めて言った。

「うん!ありがとう!」

花火がついているうちに写真を撮り、花火が終わるとケーキを食べた。

「わぁ、このケーキも美味しい!」

「ほんと、ふわふわで美味しいね。」

花火こそついていないが、雫にもデザートとして同じケーキが運ばれており、二人は一緒に食べていた。

ケーキを食べ終え、ゆっくりと紅茶を飲みながら、二人は残り僅かな時間を過ごした。

紅茶を飲み終えるともう帰る時間だ。

「…そろそろ、出よっか。」

名残惜しく感じつつも無意味に長居もできない。雫が声を掛けると詩帆も名残惜しそうに頷いた。

お店の外へ出て、二人で歩く。

あまりの離れ難さに雫は詩帆を家まで送っていった。

「雫ちゃん、今日は本当にありがとう。」

家まで着いて、詩帆はにこやかに言った。

離れ難い気持ちは詩帆も雫と同じだが、わがままを言うわけにはいかない。

「うん…。それじゃあ、暖かくしてね。おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

雫は詩帆が家の中に入るのを見送ると、少しの寂しさと詩帆の誕生日を無事祝えた満足感を感じながら帰路についた。

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