第8話 出会えた奇跡を

 朝、決意と共に家を出る。バスの始発まで時間はある。少し待つと由美が大げさな荷物を持って家から出てくる。世界の終わりの様な朝焼けが印象的であった。


「行こう、一茶ちゃん」

「おう」


 わたしはグータッチで挨拶をする。それから、バスに揺られて、在来線の駅を目指す、駅に着くと新幹線の切符を買う。そしてターミナル駅に向かう、この後は新幹線である。やはり遠い。新幹線の車内で下宮駅から病院まで、バスにするかタクシーにするか迷う。知らない土地でバスは危険か、下宮駅に着いたらタクシーでの料金を聞こう。わたしは新幹線の車内でしおりのスマホを取り出して中身を調べてみる事にした。


 メモ帖?


 それは、しおりの日記が書かれていた。



〇月×日

 目覚めるとそこは病院のベッドの上だった。医者の話では交通事故に合い頭を打ったとのこと。

しかし、記憶が無い。今までの人生の記憶だ。

〇月×日

わたしの両親を語る人物がお見舞い来る。

……誰か分からなかった。

〇月×日

今日は誰も来なかった。スマホ使いこの窓からの景色を撮影、虚しかった。

〇月×日

今日は雨、やはり誰もお見舞いには来ない。看護師さんの話では両親は忙しいこと。

本当の理由を問うと。壊れたオモチャは要らないらしい。

わたしが両親の認知ができないからだ。

〇月×日

今日から写真を一枚撮る事にした。

生きた証を残そうと思い天井の写真ではつまらない。

〇月×日

誰も来ない、天井の写真を一枚、今日はこれで終わりだ。

〇月×日

……。

〇月×日

今日はこの病院に来て二年になる。

〇月×日

……。

〇月×日

三年が経った。それは絶対的な孤独である。

〇月×日

……。

〇月×日

明日、佐々木なる人物が来るらしい。

生きる意味のない人生から解放してくれるとのこと。

……。

日記はここで終わっていた。


 この日記はしおりの孤独そのものであった。わたしと両親から捨てられる事は共通している。佐々木なる人物がしおりと言う存在を『ββ』シリーズに変えたのだ。ここはメシだ、駅で買ったお弁当を食べ始める。


「うん、美味しいね、一茶ちゃん」


 気分は観光になっていたが決意は変わらないでいた。わたしはスマホを握りしめると。時間は過ぎて行った。


 やがて、下宮駅に着くとタクシー料金を確認する。結局、病院にはタクシーで行く事になった。事前に面会時間も確認済みだ。そして、病院に着くと受付に行く。


「あ、あの……」

「面会ですか?」

「は、はい、闇間しおりさんに会いたいのですか……」


 受付の人は困った様子だ。これは嫌な予感がする。


 案内されて病室入ると点滴を受けて横になっているしおりであった。


 意識不明……。


 看護師さんの話では佐々木なる人物が来てから意識は戻らないらしい。わたしは愕然とした。ここまで来たのに意識不明である。一気に疲れが出た。わたしはホコリをかぶった椅子をキレイにして座り込む。


「一茶ちゃん、この部屋には椅子が一つしか無いから外で待っているね」


 由美が気を使ってくれた。わたしは何をするでもなく、しおりを眺めている。気がつくとウトウトとしていた。


「一茶さん……」


 しおりの声が聞こえる。もう、学校に行く時間か?


「一茶さん……」


 微睡の中でしおりの声がやはり聞こえる。目を開けるとしおりがベッドに座っている。


「おはよう、一茶さん」

「あ、あ、おはよう」


 西日が差し込む静かな病室での事であった。

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拾ったスマホが擬人化してわたしを誘惑する件 霜花 桔梗 @myosotis2

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