第7話 眠り姫を探せ

 その後、普段通りに授業が始まる。一限が終わる頃にはしおりの秘密が気になっていた。わたしは二限に入る前に教室を抜け出してしおりと共に屋上に行く。風が吹き、黒い艶やかな髪が揺れている。歩く姿はファッションモデルのようである。


「一茶さん、何か知りたい事があるのかな?」

「何故、わたしを選んだ?ゴミ捨て場で拾っただけだか、見たところ、わたし向けカ

スタマイズされているようだが」

「バレましたか?一茶さんは心に傷を持っている。わたしもスマホになる前は『孤独』と言う名の共通点がありました。そんな個性のあるユーザーに合わせて、擬人化して、財産を吸い上げようとするプロジェクトです」

「人の弱みに付け込んだ、最悪の存在だな」

「そうです、お金儲けの、何が悪いのですか?」

「くっ……」


 言い返せない、わたしは人生が終わった気分だ。


【助けて……】


 何だ?心の中から声が聞こえる。


「ふっ、プロトタイプの限界か」


 !!!


 直感的に分かったが、今の声が本当のしおりの声の様に聞こえた。


「そう、わたしはプロトタイプです、お姫様はこの世界の何処かにいます。お姫様を探し出して下さい」

「何処かの病院のベッドの上にいるのか?」


 しおりは頷くと寂しそうに消えていく。


「わたしはしばらくスマホの姿に戻ります」


 その言葉を放つとしおりは古びたスマホになってしまった。


 わたしはゆっくりとコンクリートに置かれた古びたスマホを拾う。手に取ると確かにゴミ捨て場で拾ったスマホだ。屋上の風は強く、ここに居ても仕方がない。教室に戻ると二限の授業が終わり、丁度、休み時間だ。


「一茶ちゃん」


 気がつくと、由美が後ろから抱きつてくる。


「あれ、あれ、何時もはバックを取れないのに、今日は簡単だな」

「あぁ、少し混乱している」


 そう言えば、しおり殿がいないな。ここで嘘は止めておこう。どうせ、バレる。わたしはスマホを取り出して話し始める。


「しおりはスマホの姿に戻った。おそらく、佐々木なる人物からの電話でトリガーがひかれたのだ」

「ええええ、しおり姫にもう会えないの?」


 ここにきて、まだ、語尾を変えるか。仕方がない由美だもの。


「会えない、ただし、本物のしおりを見つけ出せばいいのだ」


 わたしは真剣な顔で語るのであった。しかし、由美はジト目で見てくる。


「一茶ちゃん、その決意は本物?」


 やはり、嘘は付けない。本当は迷っていた。凡人のわたしが王子様役なんて。


「迷わないで、家族からの扱いの事は忘れて、一茶ちゃんが主人公の存在になって」


 由美の必死さが伝わるセリフであった。そう、気持ちの整理がついた。


「よし、探そう」

「そうでなくちゃ」


 わたし達は五階の空き教室に向かうことにした。空き教室に着くと黒板消しのクリーナーのコンセントを抜き、しおりのスマホを充電してみる。


 ただ一つの手がかりである。わたしはスマホが起動することを願った。しかし、ここは落ち着いて待とう。わたしはズボンのポケットから飴ちゃんを取り出す。朝、由美から貰った物だ。飴ちゃんが溶ける頃のことである。


「画面が光った。これなら、起動できる」


スマホが立ち上がると。先ず、何を探せばいい?


「フォトなんか良くない」


 しおりの撮った写真か、一番、手がかりになりそうだ。早速、色々、見るが、病院の天井らしきものばかりだ。


うん?


 一枚だけ部屋の窓からの写真がある。おそらく、病院の建物からの写真であろう。丘の上からの眺めの良い風景であった。遠くに一台の風力発電機が見える。写真の位置情報は『下宮市』だ。これだけの情報が有ればしおりを探せる。高校生の財力では決して近い場所ではない。チャンスは一度きりだ。


 先ずは目的地になる病院を探す事にした。下宮市の地図をスマホアプリで取り出す。海沿いの風力発電機の見える丘だ。「一茶ちゃん、この『下宮市立総合病院』が怪しいわね」地図上ではそうだ、南向きの海と風力発電機が推測される。しかし、新幹線を使ってもターミナル駅に出るバスの時間がかかる。日帰りは無理か……。仕方がない、下宮市の駅前のビジネスホテルを予約するか。


「由美はどうする?二人分の旅費は出ないぞ」

「友達のしおりさんの為だ、家族を説得してわたしも行く」

「わかった、決行は明日だ」

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