第6話 確かにスマホだ


 そして、バスを待っていると。


「所で、しおり姫はスマホを持っているか?」


 由美はメッセージアプリの交換をしたいらしい。しおりは確か『ββ』シリーズなるスマホであった。


 そう、ゴミ捨て場で拾って、翌日には転校生と紹介された。普通の人間に見えたが、カンが、拾ったスマホである事を感じていた。


 スマホがスマホがスマホを取り出す?笑えないギャグだ。すると、しおりは手を差し出してQRコードを読み取るように言う。


「おおお、お友達登録ができた」


 喜ぶ、由美だが、しおりが普通でないことが理解できたのであろうか?


「ふふふ、友達が増えた」


 メッセージアプリの交換だけが友達の条件なら簡単なモノだ。これはZZことダブルゼット世代と言ってもいい。そんな事を考えていると……。


「わたしは肉体を捨てて、スマホになる事を選んだのです」


 病院の個室に何年も独りでいたと話していたことか……。


「へーわたしの友達の条件には関係ないよ」

「はぁ?」


 少し驚いたしおりであったが由美の言葉は本物だ。


「おーい、バスが来たよ」


 バスに向かって手を振る由美はご機嫌である。


 ホント、ヤレヤレだ。そして、バスに乗り込むと。


 三人で一番後ろに座り、エンジョイ通学だと言う由美であった。しかし、バスに揺られていると、眠い、昨夜は隣にしおりが寝て、夜遅くまで寝付けず、色々考えていたからだ。


「一茶ちゃん、眠そうだね、ここは飴ちゃんを取り出すよ」


 そう言うと由美は鞄の中から飴ちゃんを一つかみして、わたしに渡す。まるで戦後直後の米兵の様な扱いだ。当時は甘いものが乏しく、子供達にチョコレートをあげたそうな。


 この飴ちゃん作戦は現代でも用意られる。簡単に言えば飴ちゃんを渡すことで相手に敵意が無いことを伝えるのである。更に、立場が上なら缶コーヒー作戦もよういられる。しかし、コンビニ弁当までおごると買収かと警戒されるので注意が必要だ。そう、これは高校生でのコミュニケーションの取り方だ。大人にはわからない世界の話である。


 高校に着くと昇降口から二階にある教室に向かう。しおりと由美はすっかり仲良くなり、わたしの前を歩いている。そして、階段を上ると……。


 一瞬の時であった。階段の窓から突風が吹きぬける。起きたハプニングは二人のパンチラである。


 二人共、白か……。


 しおりと由美はスカートを必死に抑える。突風が収まると由美は「ふう、エッチな風だ」と独り言を言う。わたしが困った顔をしていると。


「あぁぁ!!一茶ちゃん、見たでしょう?」


 怒った様子でわたしを問いただす。見たモノは見たのだ。しかし、ここで認めてはよくない、ここは毅然とした態度にしよう。


「え、ま、白いモノなんて見てないよ」

「やっぱり見ている。こっくりさんで呪ってやる」


 毅然とした態度は撃沈、ババ抜きでもそうだが、わたしは素直過ぎるのかと考察する。大体、昨日あれだけスク水パーティーを開いていて、ここでキレるか?


「由美さん、こいつを野放しにしていると何をするかわからないよ」

「わたしはパンチラなど気にしません。むしろ、好物です」


 由美はしおりに同意を求めるが、パンチラを自分から好物とか言うが方がおかしい。


 やはり、しおりはずれている事を再認識する。


 教室に着くと由美と別れて、由美は隣のクラスに向かう。しおりはやはり、隣の席である。わたしは一番後ろの席なので、転校生が来るなら確かにここだ。こんな綺麗な女子に見つめられるなんて今まで人生が嘘みたいだ。


『ぶーぶー』


 しおりの全身がプルプル揺れる。うん?何かおかしい。


「一茶さん、着信です。電話に出て下さい」


 手を差し出してわたしに話せと言う。渋々、話始める。


『えー、もしもし?』

『君が一茶君だね。わたしは『ββ』シリーズの開発者です』

『はい、わたしに何用ですか?』

『初めまして、わたしは佐々木と言います、スマホの擬人化のプロトタイプである。『ββ』シリーズの快適な使い心地かのアンケートです』


 何だ、この胸騒ぎは……。


 まるでプロトタイプだから回収するような口調だ。そもそも、しおりには人間であった記憶がある。


 スマホの擬人化ではなく、要らなくなった命を回収している感じだ。


『……』


 わたしの沈黙に佐々木なる人物はぴーっときたのか。


『どうやら、ずいぶんとお楽しみの様で何よりです。今後も突然のお電話をおかけるかもしれませんので、そのむねご了承ください』

『ツーツー』


 さて、ホームルームが始まる。しおりとの毎日が永遠に続くことを考えながらの時間がすぎていく。

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