第5話 孤独からの笑顔

「君は知っているかい?この世の絶対的な孤独を……」


微睡の中で誰かが問うてくる。


うん……。


 目が覚めると、しおりがベッドの隣で寝ている。そう、しおりは擬人化したスマホである。その容姿は艶やかな黒髪に整った顔立ち、モデルの様なスタイル……。夢じゃなかった。


「一茶さん、おはようございます」


数分、起きた現実の整理をしていると。しおりが目を覚ます。


「あぁ、おはよう」


  それはまるで何年も一緒に住んでいる気分であった。その延長線上で少し微睡の事を思い出す。孤独か、わたしは凡人である事を許されなかった。故に人並み以上の孤独は知っているつもりだ。


「微睡の中でわたしに問うたのはしおりなのか?」


しおりは目をそらして無言でいる。


「ねえ、知っている?病院の個室で何年も独りでいる孤独を?」

「しおりのこと?」


  うつむくしおりは寂しげである。質問に質問で返すのも問題だがこの会話でしおりが何年も孤独にいた証拠である。わたしは自室の勉強机に座ると、しおりに隣に来るように言う。十円玉を右手で隠して左手も机の上に置く。


ワン、ツー、スリー。


チャリン


 両手を開くと、右手の下にあった。十円玉が消えている。


「机の上から落としただけじゃない」


 これはマッジクではない、人を笑顔にする方法だ。


そう、そんな言葉を期待していた。勿論、しおりに笑顔が戻る。


「さあ、朝ご飯にしよう」

「はい、一茶さん」


、それから、わたしは朝ご飯を作っていた。と言っても、カップラーメンを作るだけである。しおりはシャワーを浴びている。結局、しおりは昨日、お風呂に入れなかったからだ。しばらくして、しおりがキッチンに入って来ると、艶やかな黒髪をタオルで拭いていた。しかし、わたしと同じシャンプーを使っているはずなのに、甘い香りは心を躍らせる。こんなにも香りが違うのかと驚く。


 とにかく、ご飯だズルズルとカップラーメンを食べ始める。マンネリのカップラーメンだが朝は野菜ジュースを飲む事にしている。その後、学校に行く支度をしていると。


「一茶さん、わたしは使える女子です。帰りにスーパーに寄っていってもいいですか?」


うむ……。


 一回試してみるか。わたしは財布にお金を入れるのであった。



 家を出るとバス停に向かう。天気は快晴の青空が広がっていた。しかし、この季節は嫌いでないが暑くていけない。周りは住宅街であるが元々は田園が広がっていた。当然、バスの本数も少なく、難儀するのであった。


「待ってよ、一茶ちゃん」


 後ろから由美が走ってくる。家は隣、小学校から高校まで通う学校も同じ。勿論、同じバスに乗るのである。しかし、不思議な事であるが、これだけ人生で同じ時間を過ごしているのに、由美には恋愛感情は無かった。


「一茶ちゃん、両手に華しよう」


 由美はわたし達に追いつくとわたしの腕をつかむ。


「ささ、しおり殿も一茶ちゃんの腕を掴んで」


 なんだ、この状況は……。


 わたしはしおりと由美の二人に腕を組まれる。


『グエ!!!』


 変なゲップが出た、明らかに動揺している。それは、二人の女子の胸が腕にあたる。


 これは天国……イヤ、地獄だ。こんな姿を誰かに見られたら、どんな誤解をされるか分からない。


 結局、バス停まで両手華をさせられた。

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