第4話 初夜

 由美は隣の家に帰り、静寂の日々に戻ったかと思ったら、今日からしおりが一緒に暮らすのであった。久しぶりに風呂でも沸かすか。それは普段はシャワーだけで済ましていたからだ。


「しおり、風呂沸かしたから、先に入れ」

「今、忙しい、先に入って」


 そうか?何が忙しいのか分からんが勧めながら風呂に入る。


「あー風呂もたまにはいいものだな」


 湯に浸かりリラックスしていると。何やら、脱衣室から音が聞こえる。


 そう、しおりである。


「イヤ、オイ、マジか」

 

 しおりが服を脱いでいるのだ。しおりの行動に頭が真っ白になると。タオルを巻いたしおりが入ってくる。


「一緒に入ろうよ」


 これは不味い、新婚夫婦じゃあるまいし。大体、スマホに欲情してどうする。わたしは一瞬、頭が真っ白になったが、冷静さを取り戻す。


「しおり、残念だが一緒に入れない。バスタブが狭すぎるからだ」


 よし、上手く逃げた。その言葉にしおりは酷く落ち込む様子である。


 しかし、問題はこれからだ、タオル一枚でいるしおりから脱出せねば。その時である、リビングからわたしの着信音が鳴っている。これは好機、わたしはしおりに服を着てスマホを持ってくるように頼む。しおりは言われるまま、服を着てリビングに向かう。わたしは刹那、急いでパンツとTシャツを着る。


「はぜ、はぜ」


 なんとかお風呂から無事帰還できた。しかし、濡れたままパンツとTシャツを着たので。服がずぶ濡れだ。


 そんな事をブツブツ言っているとしおりがスマホを持ってくる。


 由美からである。


『一茶ちゃん、元気してた?』

『あぁ、なんとか……』

『きっと今頃、ピンチになってなかと、電話したの』


 怖いくらい由美のカンは鋭いなと感じる。このまま、『好きだ』と言って幼馴染から恋人にジョブチェンジするかと迷うほどだ。


『要件はこれだけ、わたしは寝るから、お楽しみはこれからだね』


 ……。


 由美は応援したいのか、邪魔をしたいのか不明な会話が続いた。取りあえず、自室で濡れた服を着替えることに。とにかく、気を取り直して夕ご飯だ。


 しおりをキッチンに呼ぶとカップラーメンを取り出す。二人分のカップラーメンにお湯を注ぐと完成である。しかし、簡単な疑問だが擬人化したスマホはご飯を食べるのか?そんな疑問も関係なく、しおりはズルズルとカップラーメンを食べる。


 ここで使える女子ならば『一茶さん、ダメです。わたしが食事を作ります』などと言ってくれるのに……。暗黙の了解で料理が出来るか伝わったらしい。


「一茶さん、『ββ』シリーズをなめてもらってはいけません」


 何かプライドに当たったらしい。試しにツナ缶をしおりの前に置いてみた。


「これは缶詰です、わたしの欲しいのはキャビアやフォアグラです」


 これは庶民の料理は出来ないとの解釈ができるな。なまじ、知識が多すぎると起こりやすい現象なのであろう。わたしはしおりの料理を諦めて寝る事にした。


 それから、自室のベッドに入るとしおりとの距離感を感じる。そう、隣にマットをひいて毛布かぶっていた。兄と両親が海外にいるので空き部屋は沢山ある。


「ここで寝るの?」

「はい」


 仕方がない、一緒に寝るか……。


 しおりが現れて始めての夜は更けて行った。

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