第6話 傲慢の王、復活
デクトス王の死去から翌日。アロガンはまだ前王の死によって騒めく宮殿の玉座にゆったりと座り込む。
片足を組み、肘掛けに頬杖を突いて、今の騒動を全く気にも留めていないかのように振る舞い、そしてニヤリと微笑む。
「全く……ガヤガヤと騒がしいのぉ……。そんなに王が殺されたことに疑問があるのか?」
確かに疑問や不満は多くあった。しかしそれ以前の問題がアロガンの気付かない所で別にあった。
異世界に突然転移され、困惑している中で突如生徒の一人がその場を仕切って、最悪なことなのか。その王を殺してしまった。
まるでこの異世界に一切混乱せず、もはや慣れ親しんでいるかのようで、アロガンの終始を見ていた他の生徒と、教師は唖然とするしかなくなっていた。
そんな問題にアロガンが気がついたのは、大分間を置いてからだった。
「……。あぁ、そういうことか。あまりの解放感につい感情が昂ってしまっていたようだ……。
さて、どうしたものか。ふむ。ここは正直に言おう」
アロガンは玉座から立ち上がると、その生徒と国民に手を伸ばして言う。
「諸君よ! 改めて自己紹介しよう。我が名はアロガン・グリード。我の言った遠い島や遠国の王は全くの嘘である。
我は諸君らが知る世界ではなく、別の世界を手中に収めていた異界の王である!
そしてこれより、デクトス王国は我が国となった。
だが案ずるな……これからは魔族などどうでもいいと思えるほどに平和で、誰一人戦で死ぬことの無い国としてみせよう。全て、我に任せろ。我に委ねよ。我に仕えよ」
そのアロガンの言葉によって、中の多くの兵士や元臣下は身を引き締められ、尚困惑する者もいたが、それでも唯一状況が一切理解できないのは生徒達だった。
その中で異世界に来てから初めて口を開く者がいた。学級委員長のユウキである。
「えっと……アロガン君。これは何かの冗談かな? いきなり目の前で人が死んで……僕は何一つ君の言っていることが理解出来ない。君はどうやらこの場所、今起きていることにとても慣れているようだけど……。
どうか落ち着いて話さないか? 君もその様子は分かっているように振る舞っているんだろう?」
分かっているように振る舞っている。 その言葉が意味するものとは、本当は何一つ理解出来ず、ただ混乱しているだけで、その場しのぎで言葉を合わせているだけ。
そんな意味を持ち合わせているとアロガンは受け取る。
そう聞けばアロガンは鼻で笑って答える。
「ほう。ユウキよ。我とお前は、王と民。ではなく、新たに知り合った友人として扱おうとしていたのだがな。
落ち着けだと? 右も左も分からない小僧が王になかなか度胸のある事を言うな。
我はまったくもって落ち着いておる。一から全て、理解できるように説明してやるからお前こそ大人しく聞いておれ」
「な……僕は君のことを心配して言ってるんだぞ! そんな言い方無いだろ!」
そうあまりにも踏ん反り返る姿勢を見せるアロガンにユウキは困惑した表情で問い詰めると、その親友であるクロガネが前へ乗り出す。
「よぉよぉ、転校生が生きがってんじゃねぇぞ! 何が新たな知り合った友人だぁ? さっき親切に声かけてやったのはもう忘れたってのかぁ?
アロガン! 変な夢見てねえで今すぐその玉座から降りろ! 俺らを少しでも友人として見ていたなら、今なら何も言わないでいてやる。だからこっちに戻ってこい!」
変な夢、玉座から降りろ、何も言わないであげるから。
その言葉は全てアロガンを王として認めていないことを意味する発言である。ましてや夢と称するのは、認める以前の話であった。
そんな発言にアロガンは口角を上げて反論する。
「我を夢と申すか! なんと疑い深い人間よ。我を友人として見てくれるのなら、少しでも信じてほしいものだ。
クロガネよ。その言葉、我の前以外では言わない方が良いぞ? 他の王に同じことを言えば、確実に殺されるぞ? まぁ、我はそう簡単に殺しはしないから安心しろ」
「お前なぁ! 俺の言ってることが分かんねえのか!」
全くの見当違いな返答に、さらに激昂するクロガネはアロガンに叫ぶが、それを横から静かにヤガミが制する。
「ねぇアロガン……僕は何も反論はしない。君が王だというのなら、本当に王なんだろう。それと、そろそろうんざりする頃なんじゃ無いかな?
それなら早く説明してくれ。僕らが分かりやすいように一から」
「っておま、八神! 何言ってんだ!」
「一々煩いんだよ……僕らはアロガンのことはただ転校生としか知らないんだ。それに現状何を言っても無駄そうだろう?
ならアロガンは元からこういう人間だって思えば良い。どうしてそんな人間なのか、今から説明してくれるんだから、黙って友達の話くらい聞こ?
はぁめんどくさ……。僕は少しそこの柱で休んでるわ」
そう言い慣れてもいないことを言ったということで疲れを見せるヤガミは、欠伸をしながら近くの柱に背をもたれて、床に座り込み、直ぐに寝息を立てた。
そうすれば、それはそうだと多くの生徒がアロガンの方を向いて黙り始める。
そんなあまりにも呑気でありながらも、的確にこの場の混乱を一時的に治めたヤガミの発言に、少なからず関心するアロガンは一つ頷いてから口を開く。
「ほう……。そうだな。では、一から全てのことを話そう。我の知る限りのことを」
そうしてアロガンは別世界にて世界の王をやっていたこと。生涯を終えて異界の神に出会ったこと、ユウキやクロガネと出会ったことが転生からの転移の準備であり、神に定められたこと。
そしてアロガンが転移した最弱目的は、この世界を制覇すること。
これまでと、これからの全てを話した。
「これが我の知る全てである。だから我はこの世界に親しみを感じていたのだ。
まぁ、この世界がどんな仕組みかまでは知らんがな」
「えっと……つまりどういうこと?」
静かにアロガンの話を聞き終わった頃に、一人ヒイラギがきょとんとした表情で、再度要約を求める。
「つまり……我はこの世界を最終的に手中に置く。何もかも全てを手に入れて、我が物とする。分かったか?」
「なぁるほどぉ!」
と、やはり全く分からずまま、ヒイラギは考えることをやめた。
さて、先ずはこの世界を制覇するにはまた他の国を取らなくてはならない。
本来のアロガンの力であれば、すぐさま一人で国を掌握出来るが、ステータスとスキルというものに身体に制限が掛けられている以上、一人で動くのは愚策だと考えていた。
ならばと仲間では無いが、付き人をアロガンは選ぶことにした。
生徒の一人一人からステータスの内容を聞き、この先で有利に事を進めることが出来そうな者を厳選することにした。
世界最強の"王"が行く異世界制覇譚 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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