あなたは剣を進めますか

般若

第1話 ある劇の台本

登場人物

ボス      横柄な態度。

ゴードン    

ミュラー    主人公

ジェームズ   気さくないい奴。

グロールフィンデル 冷徹。

ロック     ぶっきらぼうにしゃべる。

召使

門番

(召使と門番は同一の役者が行う。)

役者とは別にナレーターが一人。

ナレーターはあらかじめ録音しておいて、本番口パクでも良い。


ナレーター:ペルムそれは多くの危険な道を乗り越えたさらにその先にある街。といえば聞こえはいいのでしょうが、実際は悪人どもの支配するただの暗黒の街。主要産業は石炭業と農業であり、逃げ場のないのをいいことに約千人もの人々が彼らによって苦しめられているのでございます。

この物語の主人公であるミヒャエル ミュラー

は幸運によってこの地にやってくることができました。

(ミュラーが舞台真ん中に向かって歩いていく。)

ミュラー:私はなぜここにつけたのか分からない。外にいるという猛獣にも一度も合わなかったし、道も思っていたより楽だったしな。さて、城門はここか。

しっかしなんだこの門は。本当に空くのか?

(城門(ドア)を叩く)

門番:(覗き窓から顔を出して)

なんだお前さん猛獣か?

ミュラー:どっからどう見ても人間ですよ。

門番:外から人間なんて来やせんわ。

ミュラー:旅人という選択肢はないんですか?

門番:儂がこの仕事を初めてから一度も見たことがない。全く30年間で初めてだぞ。

ミュラー:わかったから入れてくださいな。

門番:ちょっと待て、取り敢えずボスたちに連絡してくる。

ミュラー:そんなことしてたら猛獣に喰われますよ。

門番:穴でも掘って隠れてろ。

(舞台から去りながら)

(一度明かりを消し、二、三秒で元に戻す。以下この台本においてこの操作を操作Aと記す。また、操作Aの直後にくるナレーターのセリフ及び役者以外の動きについては特記のない限り、舞台が暗い間に行われるものとする。)

ナレーター:二時間後

門番:おう、戻ってきたぞ。

ミュラー:遅いですよ。何時間待たせるんですか。

門番:すまんすまん。ついでに一杯ひっかけてきてな。

ミュラー:まったく。何をやっているんですか。

門番:お主は運が良いぞ。ちょうど今晩幹部の会合があるんじゃ。

ミュラー:そんなところ行って大丈夫なんですか?

門番:賭け事やって飲むだけじゃ。なんの問題もなかろう。

ミュラー:わかりましたよ。

門番:そんじゃ中に入れ。

(ミュラーが戸を通り抜ける。)

ミュラー:それでは。

門番:おっと。ちょっとまて、お前さんなかなかいい髪をしてるじゃないか。

(ミュラーが駆け出そうとして、門番に捕まれる。)

ミュラー:なんなんですか一体。

門番:いや別にナンパしようとしてるわけじゃなくてだな。幹部と会うんだったらこのかつらをかぶっていくのがいい。

ロック殿にその珍しい髪を見られたら間違いなく全部持ってかれるぞ。

ロック殿は色んな人から取った綺麗な髪で20個以上のカツラを作ってつけてるんだ。本当の髪はボスでさえ見たことがないらしいぞ。

まぁ、大抵はいつも同じカツラをかぶっているから。それが地毛みたいなものだがな。

ミュラー:なるほどそれはご親切に。

(ミュラーが観客に見えないところに首を突っ込んでカツラをとる。カツラをつけるのではなく取る点には注意。)

ミュラー:それでは。

門番:おう。建物はあっちだぞ。

(ミュラーが入ってきた方向ではないところならどこでも良いので指を指す。)



暗転



ミュラーが中央に立ち、五人

(ボス、ロック、ゴードン、ジェームズ、

グロールフィンデル)

が歩み寄る。

ジェームズ:お前が旅人とかいうやつか。まあ仲良くやろうや。

ミュラー:お願いします。

ボス:よし、上行くぞ。

(舞台の端まで行く。)

(操作A)

(黒子が机と椅子のセットを6セット出す。〔舞台が暗い内に。作業が終わってから明かりをつける。〕)

ナレーター:彼ら6人は建物の三階へと移動していきました。

(端から出てくる。)

ボス:俺たちはいつも大体このホールで飲むんだ。まぁ大抵はその前にひと勝負するがな。

ミュラー:ひと勝負?

(ジェームズがトランプを見せる)

(ゴードンが、ラジオ[テープレコーダー]

のスイッチを入れ、音楽が流れ始める。)

(音楽は流れていることがわかる程度の音量で良い。)

ミュラー:なるほど。ところでなんで酒がないんです?

グロールフィンデル:酒があったら飲む。飲むと酔っ払う。酔ったら喧嘩になる。賭けが成立しない。

ゴードン:グロールフィンデル殿が決めたのさ。(忌々しげに)(殿を少し強調して)

ボス:よし。やるか。 

(各人が席につく。ボスとグロールフィンデル、ミュラーとジェームズ、ゴードンとロックの組み合わせになるように)

ジェームズ:(ミュラーに向かって)お前、ルールわかるのか?

ミュラー:いいや

ジェームズ:まぁ簡単な方でやりゃすぐわかるし、少し早めにも終わる。もう一個の方が面白いから普段はやらんがな。

ミュラー:よろしく。

操作A

ナレーター:12分後。

ミュラー:やった。勝った!

ジェームズ:あー。負けた。なんで俺が素人に負けなきゃいけないんだ。(札を渡しながら。)

ロック:弱いから。(ボソっと。)

ジェームズ:うん?(辺りを見回す。)

ロック:よし勝ったぞ。

ゴードン:ほいよ(札を手渡す。)

ジェームズ:早いな。

ロック:俺が大ぽかやらかしたからな。んじゃ、トイレにでも行ってくるか。(新聞をつかんで立つ。)

ジェームズ:んじゃ俺も。(新聞をつかんで立つ。ロックが部屋を出た後で)

(ゴードンはコインとトランプ等を片づける。)

(五秒間ほどの沈黙。)

ゴードン:この後の酒はお前が持ってくると、ボスも喜ぶんじゃあないか。(ボソっと)

んじゃ、俺もトイレに。(席を立って出て行く。)

ミュラー:しっかしまぁなんというか、せっかくあの死の街道とも呼ばれてる道を超えてきたのにほぼ何もないじゃあないか。普通期待するよねえ金ピカの王宮とか街のあちこちにある美しい細工とかさー。

うーん。目的地を間違えたとかかなあ。

多分あってると思うんだけど。

(悩んでるポーズ)

ナレーター:ミュラーは五分ほど悩んでおりました。

ミュラー:うーん。(悩んでるポーズをしながら。)まぁなんでこんなところに来たかは分からないけど。取り敢えずうまい鮭(イントネーションに注意、「しゃけ」と読んでも良い)でも食べるか。さっきゴードンさんも鮭があるって言っていたし。それにもうあっちの勝負も終わったみたいだし。

(ミュラーはボスたちに歩み寄る。)

ミュラー:あのー、もしよろしければ私が鮭(絶対に「しゃけ」と読まないように注意)

を持ってきましょうか?一応種類とかにはくわしいので。

グロールフィンデル:いい銘柄を見分けるのも能力ですからね。

ボス:(鼻で笑う)ほう。(横柄に答える。)まさかお前蔵のものをありったけ盗んで逃げるって魂胆じゃないだろうな。

グロールフィンデル:逃げても無駄ですよ。下には警備兵がいっぱいいますからね。だいたい4回から飛び降りる気ですか?瓶たくさんを持って。

ミュラー:そんなわけないでしょう。

ボス:じゃあその場で消費するのか?

ミュラー:しませんよ。

ボス:どうも信じられん。2分以内に戻ってこい。戻って来なかったり、蔵の中身が不自然に減ったりしていたら…わかるよな。

グロールフィンデル:1.2.3.4.5.6.7.8.9….

(ミュラーは急いで出て行く。)

グロールフィンデル:(50まで数える。途中飛ばしても良い。)

(ロック、ジェームズ、ゴードンが帰ってくる。)

ジェームズ:グロールフィンデル殿。何を数えてるんです?

グロールフィンデル:数字だ。(数えるのをすぐに再開する。

ボス。:今日は客人どもがいい酒(イントネーションに注意)を持ってきてくださるそうだ。どこに持って行くかは別としてな。

(グロールフィンデルはずっと数字を数えている。)

ジェームズ:かなりいいものが揃ってますからね。

ゴードン:金はあるからな。

ロック:ただ最近少し減ってるがな。

ボス:ふん。市民から絞り上げればいいだろう。

グロールフィンデル::飢え死にしない程度に全部持ってくか。110.111.112.113.114.115

(数字は多少前後しても構わない。)

(ミュラーが鮭を持って帰ってくる。)

ミュラー:持ってきましたよ。いやーあんまり見たことのない保存方法ですけど、火を通せば絶品ですよこりゃ。

(自慢げに鮭を見せつける。)

グロールフィンデル:ミュラー、それは鮭だ。サーモンだ。我々が欲しいのは酒だ。飲み物だ。お さ け だ。

ボス:舐めてんのかゴラァ

ミュラー:ヒーすみません。急いで持ってきます。(慌てて駆け出す。そして転ぶ。)

あいたたた。今とってきます。「起き上がって部屋を出る。)

ボス:なんなんだあいつは。

ゴードン:サーモンだけでどうやって飲もうと?

ロック:丸呑みする。

グロールフィンデル:私たちは熊だとでもいうのですかね。

ボス:熊はロックだけで十分だ。

(一同笑う。)

ゴードン:そういえばボルトは?

ロック:風邪を引いたって寝込んでる。

ボス:仮病じゃねえだろうな。

ジェームズ:いえ。先程医者が来ていたのでおそらく本当だと。

ボス:貧弱な奴め。

グロールフィンデル:後程上がってくると言っていたので、もうすぐで来るのではないですか?

まぁそろそろ年ですからね。

始末しますか?

ボス:まだだ。奴はまだそこまで衰えてはいない。

ジェームズ:年とはいえ、あの剣は強いですよ。私とロックと、グロールフィンデル殿が3人でたかっても勝てますまい。

ゴードン:私が入っても無理だ。ボスが入ったら知らんが。

ボス:ふんっ(鼻で笑う。)

(ミュラーが瓶を持って帰ってくる。肩で息をしながら)

ジェームズ:やっと帰ってきたか。

ボス:今度はちゃんと酒を持ってきただろうな。

ミュラー:ええ。2番目に立派な瓶に入ってるのを持ってきました。流石に一番立派なのはちょっとね。

ジェームズ:ゴードンに飲ませてみよう。

ゴードン、どの酒かを当ててみてくれ。

ロック:ゴードンはこれの達人でね。毎回ドンピシャで当たるんだ。

ボス:ゴードン、今日は鼻をつまんでやってみろ。

ゴードン:了解。

(ミュラーがグラスに注ぎ、ゴードンに渡す。ゴードンは鼻をつまんで飲む仕草。その後、グラスを置く。)

(沈黙の瞬間)

ゴードン:これは酒じゃない。

(皆が一斉にミュラーをみる。)

ミュラー:い、いえこれは間違いなく酒ですよ。は、鼻をつまんでたからわからなかったんじゃないですか?

ボス:ロック、ラベルを見てみろ。それですぐわかる。

ロック:了解

(ロックが瓶をみる。)

ロック:スパークリングウォーター。炭酸水ですね。

(皆が一斉にミュラーを見る。)

(悲鳴)

(一同ビクッとする。)

ジェームズ:なんの音だ。

ロック:一階からだな。

ボス:取り敢えず行くぞ。

(皆が駆けて部屋を出る)

(音楽を消す。)


暗転


(黒子が別の音楽をかける。)

(音量に注意すること。)

(舞台の端から6人が出てくる。)

(舞台の真ん中あたりに召使が膝をついて指を刺している。)

ジェームズ:おい。どうした。

召使:ボ、ボルト様が…

グロールフィンデル:使い物になる内に誰かが始末してくれたらしいな。

ボス:ほう。犯人を探せ。とっ捕まえて目に物を見せてやる。

グロールフィンデル、ロック、ジェームズ、ゴードン:はい(はっきりと声を合わせて。)

グロールフィンデル:取り敢えず第一発言者の話を聞くとしようか。


操作A


ナレーター:こうして彼らは捜査を進めました。

グロールフィンデル:ボス、大体のところまでわかりました。

ボルトは30分から一時間半ほど前に何者かによって殺されています。そして、かなり念入りに行われている反行なので、だいたい所要時間は10分ほどでしょう。

また、犯行の手順からして、小さいながらも音が鳴るはずですが、ボルトはいつも寝る時にラジオの音楽を流していたので、聞こえなかったのだと思われます。また、かなりの力が必要な犯行なので、犯人は相当の力持ちだったのでしょう。この中で言うと、ゴードンくらいの力が必要ですね。

また、犯行にはヒモのようなものも使われていて、その紐には血も付いているはずですが、見つかっていません。犯人が持ち去ったのでしょう。

全員の身体検査もしましたが、誰も持っていませんでした。

ボス:犯人の手がかりは。

グロールフィンデル:私とボスは部屋を動いてないので不可能で、ジェームズたちは相互にアリバイがあります。

ボス:ほう。そしたら3人がぐるじゃねえ限り無理だな。

グロールフィンデル:ええ。あとはミュラーですが、(ミュラーをみる。)

彼は一階でボルトが寝ていたことを知りませんし、今日この街に来たばかりなので動機もありません。

おそらく外部のものではないかと。

ゴードン:待った。グロールフィンデル殿がやらせた可能性もある。グロールフィンデル殿はやつを始末したがっていたようだしな。

ボス:確かにな。この中でお前だけがやつの有用性に気づいていなかったようだしな。

グロールフィンデル:いえ、決してそのよ

ボス:(グロールフィンデルの言葉を遮って)

だが、あそこにいて警備しているのは皆俺が選んだ奴らだ。全員がこいつに(グロールフィンデルをさして)魂を売るとは考えにくい。

ジェームズ:そうするとやっぱり外部のやつか。

ゴードン:この警備をすり抜けてか?

グロールフィンデル:四階の窓は戸がありません警備にバレずに4階まで壁を登ることができたら、犯行は簡単でしょう。

ただ、昼間にバレずに壁を登るのは相当難しいかと。

ゴードン:昨夜のうちに入っていたら、どうだろうか。

ロック:バレにくい。

ジェームズ:なるほど。

ミュラー:あのー、一度図にでも書いて整理をするのはどうでしょうか。

確か三階の部屋にはブラックボード(用意できるのならば、ホワイトボードや模造紙などでも良い。)があったはずですが。それと、指紋は調べたのですが?

グロールフィンデル:確かにいい考えだな。私たちをここから誘き出す案としては。そしてなんだ?指紋というのは。

ミュラー:指紋を知らないのですか?

ゴードン:知ってるぞ。あの香辛料だろ。だがあれは高いんだ。ここにも少ししかないぞ。

グロールフィンデル:それはシナモンだ。

ジェームズ:とにかく行きましょう。整理するのは良いことです。

(皆が端の方へ向かう。)

ミュラー:指紋が取れないのか。

(ミュラーも遅れて端へ向かう。)

操作A

(音楽を止める。)

(端から出てくる。)

ジェームズ:よし。整理しましょう。

(グロールフィンデルが図を書く。観客に見えるように大きく。簡略化できるならばしても良い。)

図の参考例


ゴードン:侵入できるのは四階のここだけだな。(図の星印を指差しながら。)

グロールフィンデル:四階なら隠れられそうな場所もあるからな。(図の小スペースを指す)

ジェームズ:そしてこうやって(図に赤線を書き入れながら。)下へ行ったわけか。

ボス:階段を降りる時に音が鳴らなかったのか?)

グロールフィンデル:この部屋でも音楽が鳴っていたので、気づかなかったのだと。

ただ、この部屋から出た4人が一度も遭遇しなかったのは謎だな。

ロック:ただの運。

ジェームズ:いや、四階の階段の上から俺たちの動きを見ていたんじゃないか?

そうすればタイミングよく出てこれる。

このスペースに入れれば簡単だ。

ミュラーは焦っていたようだしな。

それに、このルートを通れば会う可能性があるのは階段だけになる。それなら簡単に避けられる。

グロールフィンデル:そうすると、体がものすごく小さいやつだな。もしかすると子供が?

ボス:ほう。子供か。面白い。

ミュラー:つまり、犯人は壁を登るのが得意な力持ちの子供ということですね。

グロールフィンデル: そう言うことになる。

ジェームズ:そして同じルートで帰ったと言うわけか。騒ぎが起きたあとなら、逃げ出すだけであれば簡単だろうしな。

そしてここの四人の動きは3人が青、ミュラーが黄色だ。(色は変えてもOK)

ボス:しかしゴードンよりも力の強い奴なんているのか?

ミュラー:ゴードンさんってそんなに力が強いんですか?

ジェームズ:この町で一番強いと言われている。

ミュラー:そんな力が必要なんて…

グロールフィンデル:中学生のやる劇では言えないが、かなり特殊な犯行だ。お前さんも見ただろう。

ミュラー:確かに。

(舞台を暗くし、ミュラーにライトを当てる。)

(他の役者は裏で捜査をする又は話し合う動作。)

ミュラー:何か引っ掛かる。この町で一番力の強いとうゴードンよりも強い力を持つ者が、

すばしっこくて体の小さい子供だと?

そんなことは考えにくい。

しかし、私も遺体は見ているし、ゴードンほどでなければ、無理だと言うのも嘘だとは思えない。

ボスならばこんな七面倒くさい方法で殺害する必要がないしなぁ。

(黒子が七面鳥を手渡す。) 

ん?ああ。七面鳥じゃない。七面倒くさい。

(黒子に向かって)

ん?まぁ美味しいかもしれないけど今それどころじゃないから。

(黒子が頷く。)

(黒子が七面鳥を投げ捨てる。)

いや食べ物を捨てるなよ。

え?食べられない物だからからいいって?

そんな物持ってくるなよ。

取り敢えず帰ってくんね?

(黒子が帰る)(帰り際に七面鳥回収)

ふう。思わぬ邪魔が入ったけれど、一体全体どうやったらこんな犯行が可能なんだ?

おや?誰か入ってきたぞ。

(召使が入ってくる。)

(召使が全員にパンを配り始める。)

ボス:そういえばこいつのアリバイは大丈夫なのか?

グロールフィンデル:ええ。犯行時刻には外に買い出しに行っていて、完全に白です。

(召使がミュラーにパンを渡す。)

ミュラー:おお。小麦のパンか。

たびに出る前はグルテンフリーとか言って米粉の物ばかりであんまり食べなかったからな。

ん?待てよ。グルテンフリー、グルテンフリー、グルテン、グルテン、グルテン(だんだん声を小さくしながら。)

そうか。そういうことか。いや、待てよ。

だったらあれは。なるほど。ようやくわかつたぞ。(笑い始める。)

グロールフィンデル:ミュラー。どうした?

ミュラー:いや。犯人が分かっただけですよ。

ジェームズ:なに!

(全員がミュラーをみる。)

ミュラー:この建物に侵入ることができ、なおかつゴードンと同等以上の力を持つ人間。

いるじゃないですかここに。

(ゴードンを指差す)

グロールフィンデル:しかし、こいつにはアリバイがあるし、縄も持っていない。一体どこに縄を隠したというのだ?

ミュラー:かつら。

ボス:ん?

ミュラー:ロックのカツラの下まで検査しましたが?

グロールフィンデル:(ハッとして)

なるほど。そういうことか。

ミュラー:ええ。

ボス:どういうことだ?

ミュラー:あなたは言いましたよね。

3人がぐるじゃない限り無理だと。(強調していう)

何故、一番可能性の高い選択肢を一番初めに削除したのですか?

ボス:なるほど。

ミュラー:動機はわかりませんが、犯人はあの3人で間違いないかと。3人がグルで有れば、アリバイは成立しませんしね。

(3人が抜刀する。)

ジェームズ:動機を教えてやろう。

こいつを討つためだ。

(ボスに剣(刀)の切っ先を向ける。)

ゴードン:ボルトが残っていると。ここで負ける可能性が高い。それに奴はボスの忠実な部下だったから、寝返ることも考えにくいしな。

ミュラー:何故こんなことを。

グロールフィンデル:野心があるようには見えなかったが、この組織を、そして街を自分たちで支配したいんじゃないか。

そしたら莫大な富が入ってくるからな。

ロック:私欲のためにこんなことはしない。

ゴードン:こいつを(ボスを指差す)

始末し、この組織を変えて、この街に住む1000もの人達を悪政から救うのだ。

ジェームズ:俺たちは正義のためにやっている。私利私欲のためではない。

ミュラー:ふざけるな。人を殺しておいて、何が正義だ。それじゃあ悪人と変わらないではないか。人を殺すのは悪人のやることだぞ。

ロック:黙れ。お前は人の正義の良し悪しを決められるほどに偉いのか?

(ミュラーは歯軋り)

ミュラー:すぐさま剣を引け。慈悲の心の下に。

(ジェームズは腕を震わせ。)

ジェームズ:知らなかったよ。自ら手を下すのがこんなにも怖いなんて。たとえ、それが悪人であろうと。

ロック-ゴードン(声を合わせて):ジェームズ!

(ジェームズは躊躇する)

(舞台が暗くなる。)

(ナレーターにライトが当たる。)

(ジェームズとボスはライトが当たっているできるだけ近くでそのままの姿勢をキープ)

ナレーター:もし、あなたがジェームズなら、あなたは正義の名の下にその信念を貫き、目の前の1人人間の命を奪いますか?

それとも、慈悲の心にかけて、1000人の人間達を見殺しにしますか?

あなたは、剣を進めますか?それとも、退きますか?

(ライトを消す。)

(しばしの沈黙。)


                   完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたは剣を進めますか 般若 @white-bear-bu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る