ミニブタの仕立て屋さん、スーツを仕立てる
旦開野
第1話
大きな街の一角に、頑張りもので、手先の器用なミニブタくんが営む、仕立て屋さんがありました。
「さあ、頑張るぞ」
ミニブタくんの仕立て屋さん、今日も元気に開店です。
ミニブタくんのお店はいつも大繁盛。お洋服を作ってほしいというお願いがたくさんきます。
キツネさんのシャツにイヌさんのズボン、ネズミさんの小さいセーターやクマさんの大きめワンピース。ミニブタくんはどれもあっという間に仕立ててしまいます。
ふう。今日のお仕事も終わり。お疲れ様でした。
さて次の日の朝。
コロンコロン。お店の扉が開きます。やってきたのは灰色の毛とブルーの瞳が綺麗な、常連のおしゃれねこさんです。
「おはよう、ミニブタくん。この間のドレス最高だったわ」
ミニブタくんは以前、ねこさんに頼まれてパーティー用のドレスを作っていたのです。
「気に入っていただけたのであれば良かったです」
「それで今日はまたお願いがあってきたんだけど……」
ねこさんは少しモジモジしながら言いました。
「僕にできることがあればなんでも! 」
ミニブタくんは元気に答えます。ミニブタくんの答えを聞いてねこさんの顔は明るくなりました。
「またパーティーに呼ばれちゃったの!今度は春の訪れをみんなでお祝いするんですって。だから新しいお洋服がほしいの」
「今度はどんなイメージのドレスですか? 」
「今回お願いしたいのはドレスじゃないの。ちょっと雰囲気を変えておしゃれなスーツを着ていきたいの。できれば春っぽい感じがいいわ。お願いできるかしら? 」
「はい、もちろん。」
その言葉を聞いたねこさんは大喜び。
「それじゃあよろしくね。普通のスーツよりもおしゃれで可愛らしいものがいいわ」
それだけ言うと、ねこさんはお店を後にしました。
「さてどうしよう……」
元気に答えたミニブタくんでしたが、実はスーツを作ったことがありません。しかも普通のスーツじゃなくてパーティー用に来ていくおしゃれなものを作らなければならないのです。その日、ミニブタくんはああでもない、こうでもないと、ねこさんのスーツのデザインを考えました。
次の日、仕立て屋さんはお休みです。しかしミニブタくんは早起きして、お外に出かけていきました。向かったのは街はずれにある小さなお家です。
「おやおやどうしたんだい? 」
緑色の木でできた扉を開けて、答えてくれたのはミニブタくんのおばあちゃん。ミニブタくんに服の作り方を教えてくれたのがおばあちゃんです。ミニブタくんはおばあちゃんであればスーツの作り方を知っていると思ってやってきたのです。ミニブタくんは、早速おばあちゃんに事情を話しました。
「そうかいそうかい。ちょっと待ってておくれ……確かこの辺りだったかな……」
おばあちゃんはロッキングチェアから立ち上がると、向かいの本棚の方に歩いていきます。本棚にはお洋服についての本がたくさん並んでいます。
「あったあった。この本に作り方と、私が昔使っていた型紙があるよ」
おばあちゃんはミニブタくんに一冊の本を差し出しました。
「色々な洋服を作ってきたミニブタくんなら、これを見ながら作れるね? 」
「うん。おばあちゃんありがとう。またゆっくり話にくるね」
「あんまり無理しちゃダメだよ。あんたは頑張り屋さんでいい子だけど、頑張りすぎちゃうからね」
そう言うとおばあちゃんはミニブタくんを玄関までお見送りしてくれました。ミニブタくんはおばあちゃんの小さなお家をあとにしました。
次に向かったのは街の中心。一番賑わっているところです。おしゃれさんが集まる、おしゃれ通りに面した大きなお店。ドレスにバックに香水に……最高におしゃれな品物が揃っています。お店の中も大賑わい。ミニブタくんは、お店に入り、さらに奥へと進んで行きました。
「おや、珍しいお客さんだね」
「お久しぶりです、師匠」
「師匠なんて言われるのは好きじゃないの。マダムピッグとお呼び」
こちらの大きくて黒色のロングドレスに身を包んだブタさんはマダムピッグ……ミニブタくんのお師匠様です。お洋服のデザインは全て彼女から学びました。
「初めてスーツを仕立てるんです。なのでデザインのアドバイスをいただけたらと思ったのですが……」
「なにそんなこと。デザインなんていつも通りにやればいいだろう。もちろん、お客様からの要望は聞いているんだろうね? 」
「ええ。まあ……」
「だったらその通りに作るだけさ」
「だけど、スーツなんて初めてで……」
「ええい、ごちゃごちゃうるさいな。お前の仕事だ、私に答えを求めるな。私のところに来るよりも外へ行って、見て、感じて、調べた方のがよっぽど有意義であろう」
言葉は厳しいですが、たしかにそれもそうだ、とミニブタくんは思いました。
「お時間取らせてしまってすみません。ありがとうございます」
ミニブタくんはマダムピッグに挨拶をしてお部屋を出ました。
マダムピッグに言われた通り、ミニブタくんはリサーチに出かけました。ねこさんのリクエストの春っぽさを入れるために春を探しにいきます。
お外はまだ肌寒いですが、少し春の陽気を感じます。道ばたには少しずつですが黄色、青、ピンクと、小さな野花が花を咲かせています。川沿いに植えられた桜の木をみましたが、こちらはまだ花が咲いていません。
「ねこさんの毛色だったら桜色が綺麗そうだな….」
そう言うとミニブタくんはきた道を戻り、自分のお店へ向かいました。どうやらスーツが作れそうです。
ミニブタくんがお店へ帰ると早速スーツ作りです。まずは生地を選びます。去年撮った桜の写真を見ながら桜色の生地を選びます。うん、これがいい。せっかくおしゃれスーツなのだから遊びを入れよう。襟の生地の色を変えたいな……とさらに生地を探します。ちょうどいい、春らしい黄緑色の生地がありました。よし、これにしよう。
生地が決まったらおばあちゃんからもらった本と型紙を使って、スーツの型を作ります。生地に印をつけて裁ち鋏でチョキチョキ。全てできたらそれらをミシンで縫い合わせます。
カタカタカタカタ。
「よし、できた! 」
ミニブタくんが、初めて作ったスーツが完成しました。
「うーん」
しかし何かが足りません。しばらく考えていたミニブタくんでしたが「そうだ! 」と思いつき、作業していた部屋のタンスを探しはじめました。
「あったあった」
ミニブタくんが持っていたのは作りものの白いお花です。前にうさぎさんのドレスを作った時に使ったものです。ミニブタくんはまたミシン台に向かい、作業を始めました。
チョキチョキカタカタ。
「これで今度こそ完成だ! 」
今できたばかりの白いお花のブローチをスーツの胸ポケットに飾って、ミニブタくんは言いました。
「スーツができたって聞いてやってきたんだけど……」
次の日、朝からねこさんがやってきました。
「はい。こちらです。ぜひ試着してみてください」
ミニブタくんはできたばかりのスーツをねこさんに渡すと、試着室に案内しました。ねこさんは試着室に入り、スーツを着てみます。
ガサガザガザ。
「素敵!最高よミニブタくん! 」
そう言うと同時に試着室のカーテンが開きます。ミニブタくんの思った通り、サイズも色合いも、ねこさんにぴったりです。
「お似合いですねこさん。喜んでもらえてうれしいです」
ミニブタくんの顔も綻びます。
「気分がいいからこのまま着て帰るわ。街のみんなに自慢したいもの!パーティーの日が待ち遠しいわ」
ミニブタくんはねこさんからお礼のフルーツをもらい、ねこさんは作りたてのスーツを着てルンルンで帰って行きました。
「喜んでもらえてよかった」
ミニブタくんはひと安心です。
大きな街の一角に頑張りもので、手先の器用なミニブタくんが営む仕立て屋さんがありました。
「さあ、頑張るぞ」
ミニブタくんの仕立て屋さん、今日も元気に開店です。
(了)
ミニブタの仕立て屋さん、スーツを仕立てる 旦開野 @asaakeno73
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