仙から、魂の伴侶へおくる玉を
多彩な
人々の欲望にまじった
赤、朱、
夜の薄暗がりを
熱気にあふれた繁華街では店主が手を招きながら、熱心に客を呼びこんでいる。
どこか妖しげな女が
幼い子の姿はどこにも見当たらず、うごめく黒山の人だかりがずるずると喧騒をたたえて踊っているようにも見える。
ああどうしてだろう、と仙は思う。
人々は楽しそうに踊ってさえいるのに、なぜ心に空いた空洞を風が撫でるように不快になるのだろうか。
「そこの兄ちゃん、いい面してんなあ。ちょっと見ていかんかい?」
繁華街は冷えるなぁ、と思いながら仙が歩いていると、ふと声をかけられた。
特にすることもなかった仙が爪先を店へと向ける。
にたり、と金歯を見せて悪徳そうな笑みの
「佩玉か、おもしろいね」
仙がつぶやくと、老爺はにたにたしながら仙にそれを手渡す。
女性物の、琥珀の佩玉だった。なかなかの上質なものだろう。平民は手に入りにくい代物だ。
手に取ったそれを眺めていると、笑みを深めた老爺が下から覗き込んでくる。
仙は口元に薄らと微笑をうかべて、いい佩玉だね、と告げた。
老爺は満足げに眉をあげると、一度店の奥へと消えて再び戻ってきた。その手には他の品物が乗っていた。
「それにしても、兄ちゃん本当にいい面だな。その面じゃあ、もうお相手の一人や二人あるんだろ? なら、これを買っていけさ」
店主は人当たりのよさそうに歯を見せて笑うと、ほれ、と仙に品物を手渡した。
それは、琵琶をかたどった銀細工の佩玉だった。
銀細工の琵琶、緑の翡翠、
そういえば、彼女の名は《琵琶》をつかった美しい名だったよな、と仙は思いながらじっと掌中を見つめる。
「気に入ったかい?」
目を細めてこちらを伺う老爺に、仙は口端をあげる。
「ああ。……ひとつくれるか」
老爺はにっこり笑って、
「あいよ。三銭だ。贈るんだろう、包むかい?」
と尋ねた。
仙はうなづき、懐から三銭だして老爺に手渡した。
店主は丁寧に袋につつみ、おまけに箱にまで入れてくれた佩玉を仙に渡し、満足げに笑った。
「相手はどんな子かね」
店主はそう尋ねて、仙の表情をじっと見る。
仙はふっと笑みをこぼすと、
「さあ。……未来のことだからね」
あの、まったく日焼けを知らなそうな白い肌と、
きっとこの佩玉をつけたあの子は綺麗だろうから。
奇妙な脈絡に困惑した表情をうかべている店主に振り返り、けれどもすでに帰路へと爪先を向けながら仙は笑う。
「俺から、魂の伴侶へおくる玉だよ」
……未来の、ね。
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