言という術
「心当たりがあるのなら答えてほしい」
月光を受けて白銀に耀く肌が、一瞬、
死となり黒に黒百合。
ほかの呪いや術までもを熟知している
まるで、それ自体が死を司るもののような——どこにも染まらぬ、昏い黒を纏う術。
陰でありながら、光を浴び光る月の姿。
「近頃、
ころりと真珠を転がしたような声に、仙がはっと前身を強張らせた。
やさしくも、どこか水のような冷たさと
饒舌なのに言葉を失い、目前の冰遥を直視している
心当たりがあることは火を見るよりも明らかだ。
「おまえが……なんでそれを、知ってるんだよ」
掠れた声で、喉の奥から絞り出すように言った仙は、苦しそうに
仙は唇をひき結んでは解いて、時に言にもならぬ息を
このわたくしに
邪術をつかえば、彼の知りうることなど探ること、容易なのだ。
だが、冰遥は術をつかうことを嫌う。
文琵とのときもそうだった。
彼女は知っている。術は、所詮だれかの力にすぎない。たしかに、
だがそれよりも、自然に根づき、彩を纏い、たがいに身を寄せあう言のほうがはるかに神秘ではないだろうか。
心をかよわせ、相手を気遣い、称え、慰め、想いを伝える。
いまだかつて——そんなに、高度な術が存在しただろうか。
いやそれはない、と冰遥はすぐに否定する。
どれだけひとが術を繰ろうと、言葉にまさるものはないのだ。
「信頼がおける、とは思っていない。ひとはもともと信じられないからな」
仙が、静かにこぼした。
「けど、まぁ……躘の野郎が
これこそが、彼女の本質なのだろうと思う。
じっと待ち、構える。ただ、傍にいるだけ。
仙は、すっとゆるめた
その彩が、どんな色なのか――彼女には、まったくわからなかった。
「……もしできるなら、力を貸してほしい」
それは、と冰遥は言いかけて、喉で止めた。そして、ゆっくりと飲み下した。
今話すことではない。
言はもっとも繊細な術だ。だれにでも使えるからこそ、もっとも難儀なのだ。
「会ったんだ。ちょうど一か月前の、夜」
仙の唇が、割られる。
彼から語られるその日の情景に、冰遥は
——真っ先にうかんだのは、美しい白い面の女だった。
◇◇◇
これにて、第三章が幕を閉じます。
そして、また新たなる章、謎が謎を呼んだ三章につづき、すべての謎と因縁が明かされる四章になります。
たぶんこの四章で物語は完結をむかえることと思います。
……もしかしたら、おまけくらいで五章もかくかもしれませんが、むやみなことは言えないので聞かなかったことに……。
ここから先はシリアスのない、日常を書くために幕間としますので、ご了承くださいませ。
では、みなさま、これからも応援よろしくお願いします♪
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