露楊からの頼み
安堵と疲労で、へらへらと床へと膝を折って座りこむと同時に、窓の外に人影が見えた。
その後、ドンドンドン! と乱暴に窓を叩かれる。急ぎの用なのだろうか。
見慣れた輪郭が見えた。
ここまでにすらりとした
慌ててほどけた髪を簪で結わえ直し、窓を開く。
すぐそばに庭園の隣接した冰遥の住まう翡翠宮だが、
ああ、ついに来てしまったか、と冰遥は思った。
なにより、彼女は泣いていた。
「お話を」
「……ええ、どうぞおあがりください」
苦しそうだ。
堪えきれなかった涙がしきりに頬を濡らし、嚙みしめたせいで顎が強く強張っている。
拳は酷く握りこまれていて、真っ白になっていた。
「とりあえず、水を用意しますね。息を整えなければ」
「ありがとうございます……」
窓を下まで開き、室に招く。
窓から招くのは、とんだ
室の隅に隠しておいた
露楊は水呑を受け取ると、一気に飲み干した。
「お話の先に、
黒目の奥に、
皇族のむすめだ。
焦る本能も身に押し
幼な心のころに、凍てつく他方法のなかった。さながら、炎でありながら
「どうか、苦しむ兄をお助け願いたい」
「兄が、今朝より床に臥せています。是が非でもお救い願いたいのです」
「なぜ、わたくしに」
具合が優れず身に
三つの学で、医療は保たれている。
床に臥せているのなら、冰遥ではなく医官に事を知らせるのが先ではないのか。
露楊は腹をくくったように深々と頭を下げた。
「……
解けぬ、と言ったか。
だが、解けぬと言ったのは、少し前に冰遥が察知した邪気に関わるものだというからなのか。
かすかに片眉を上げた冰遥に、露楊は畳みかけるように口にする。
「姐さまは先日、気配がついた人に危険が迫ると言った。気になる気配があると。その前に兄に抱えられていた。それは……兄に、なにか危険が迫っているのが見えたのではないのですか」
不思議なほどに、勘が鋭いむすめだと、冰遥は思う。
自分が把握していない状況を推理し、裏づける証があってこうして行動にうつしてくる。
教養深く、頭の切れるかしこいむすめだ。これでは、冰遥でもそうそう敵わないだろう。
「……ええ。そうです」
「ならば、私の兄を救ってはいただけませんか」
快諾する理由はなくとも、断る理由もなかった。
そもそも、彼についた邪気を追い、姉さんの居場所を特定しようと目論んでいたのはこちらだ。
冰遥は苦実を
予定が、あらかじめ心に決めた道筋が、少しだけ外れただけだ。
いずれ起こらんとしていたこと。それが今になり現れただけ。
天地が
運命の互い違いが生まれたわけでもない。
――そう、安心させるように唱えてみるが、冰遥の胸はざらりと
偶然に生まれた
それがいつの日にか呪いとなり、因縁と転ずることも。
「分かりました。今すぐに準備します」
簪が、妖しく赤紫に光った。
その
だが、苦しんでいる人がいる以上、因縁を
それは、
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