衝撃
そこから、父と
つねに平和であったわけではなかった。
だが、ひと悶着、
それと並行して、感情の制御も成長し、躘は生まれもった性格のとおりに穏やかにすごしていた。
そして、躘が十三の年となるころ、その祝いにと父は、躘になにかほしいものはあるかと尋ねた。
「父上。ひとつだけ願いがあるのですが……」
躘は、不安そうにこぶしを握りしめる。
「珍しいな。なんだ、言ってみろ」
「
「あぁ……いたな。それがどうした?」
「あの……その……」
照れたように顔を伏せる躘に、父がはっとした。
赤く染まった頬は、照れた顔は、それは、完全に――恋をしているものの顔で。
「もしや……躘……」
「ひ、一目惚れ、を……」
「なんと!」
我が子の成長がなによりもうれしかった父は、すぐに女戦士――
親ばか、とも言える。
だが、
その甲斐あってか、二人はまたたく間に恋におち、誰もがうっとりとするような
だが、ここでも悲劇はとまらなかった。
沙華が都を去ってから、躘は生きる術を見失ったかのように、ぼんやりと日々を過ごしていた。
そんな躘に
「うじうじしてんな! お前がそんなんじゃ、いつしかその女も、他のヤツに取られんぞ!」
灰をかぶったように虚ろな目で蝶を追う躘に、
「仙……」
躘が言うと、仙はふんっ、と鼻をならした。
「俺が教えてやる。お前はがむしゃらにやって、その女迎えにいけ。絶対、だぞ」
仙は、幼いころからの鍛錬のおかげで、戦術に長けていて、
年はちょうど沙華と同じ十五でありながら、十五とは思えぬ
そして、希望を見失っていた躘は、努力と
「おい躘、そろそろ休憩だ」
「……分かった」
躘の手から投げだされた刀が、地面で金属音をたてる。
躘は、手に巻いた――刀の滑り止めとなる布をかえていて、投げだした刀など気にしていない。
その様子を見て、仙が苦笑いをうかべながら、躘の刀を拾う。
「本当、昔から刀を投げる癖は変わんないな」
そう笑いながら、おのれの刀を
「あぁ……なんか、力が入らなくなってしまって」
「
「……
そう言いあうと、互いに顔を見あわせて笑った。
仙は、もう片方の手の布を交換しはじめた躘に言う。
「……で、調子はどうだ?」
躘は、背をむけていた仙に振りかえった。
「それは……体調のことか、武術のことか……それとも
布の端をあわせ、巻きなおしながら、仙に言う。
仙は、ため息に似た息をはいた。
「……全部だ」
躘は、瑪瑙のような目を細め、仙に向く。
「体調はまだ完全にはもどっていない、武術は見ての通り、政は……大丈夫そうにはなった。それと……」
躘はそこまで言うと、はにかみながら下を向いた。
「なんだよ、それ?」
聞きかえし、怪訝そうに眉に力が入る。
「いや……少しね」
ふふ、と愛らしい微笑みを見せる躘に、秘密をつくられているようでさらに眉に力が入る仙。
躘が仙の手から刀をもらい、腰につけていた
「なんだよ」仙が躘のとなりに立つ。「なんか良いことでもあったのか?」
「仙。あの、昔からしたっていた人の話、覚えてるか?」
「あぁ……もちろんさ。あの女人だろ?」
それがどうした、と言う仙。
躘は一瞬目をふせて、そして嬉しそうに笑って仙を見た。
「そう。……で、その人と再会したんだ」
「……は?」
仙は、口をまぬけに開けたまま、思考が停止した。
「よ、よかった……な?」
ようやく理解が追いついた仙の言葉に、ふっと吹きだす躘。
「なんで疑問文なんだよ」
そう尋ね、髪を結わえる紐をきつくしばる。
「……お前が望んでいたことがおこるなんて、夢みたいだと思って」
「うん……ありがとう」
微笑んだ躘は、仙が知っているやさしく穏やかな表情だった。
「……今、とてつもなく幸せなんだ」
そう呟き、軽やかに歩きだす躘のことを、仙がじっと見つめていた。
その表情は穏やかで、親愛に満ちた瞳だった。
だが、すぐに二人のもとに衝撃の知らせが届いた。
――現皇帝が、なにものかに暗殺されかけたという知らせが。
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