火刑の百合

佐藤菜のは

火刑の百合

王様は自らの掌を杭打ち

冠は暖炉の火にくべた


隣の間ではお后が

百合の花を握りしめ息絶えている


家臣たちはみな庭園に集められ花もろとも燃やされた

侍女たちは残らず連れ去られた


わが子らの行方は知れない

お気に入りだった人形は血濡れて転がっていた


柱は倒され、扉は砕かれた

帷帳は引き裂かれ、窓という窓はすべて割られた


かつての形を留めぬ暖炉の中で冠が消えていく

最後の熾火に潜んでいた蜘蛛が焼かれる音がする


玉座に磔にされた王様の白い腕は

二度と民の額に祝福を授けることはない


煤ぶる王様が焔の果てに見上げたものは

天井に穿たれた穴から覗く空の赫い月

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火刑の百合 佐藤菜のは @nanoha_

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