第三章の現場から
1 香港死闘編 1
僕が意識を取り戻したのは体が妙に揺れた感覚があった時でした。
ふと目を覚ますとどこかのベッドに寝かせられていました。
慌てて身体を動かそうとしたのですが、腕や足にロープが食い込んでいました。痛いです。
「目を覚ましたか」
一人の男がブランデーのきつい臭いをさせながら目を覚ました僕の横に座っていました。
「ん……ん」
僕はガムテープを口にされたままでしたので当然何も話せませんでした。
むぐむぐ星人のままです。
周りを見渡すと、木で出来たわりとこじんまりした部屋で、視界の端に救命道具のようなものが見えました。
ベッドの脇にある小さな丸い窓や、部屋の隅に転がった浮。
どこからか香る潮の香り。
そしてこの浮遊感にも似たくりかえしの上下運動……間違いありません、ここは船の上です。
「ん……んん……」
僕は身体を動かそうとして顔をしかめました。
食い込んだロープが長いこと拘束していた腕に青いあざを作り、血が行き届かないために手自体が白くなっています。
ロープが食い込んだところが痛くてたまりません。
恐らく足首も同じようになっているのだと思います、同じように痛いです。
「嫌な商売だよなぁ」
大男はドスの効いた低い声で言うと、再びミニテーブルの上にあるブランデーのグラスを揺らし口に含みました。
男がそのグラスを一気に開けると中に入っていた氷がカランと音を立てました。
仕草や動きがいちいち大雑把で無骨な気がします。
「まぁ、でも、この際。最後のいい想い出つくりでもするか? 毎回これが楽しみでやっている商売でもあるんだからな。でなければこんな商売やってらんねぇよなぁ?」
訳のわからないことをぶつぶつと言うと男はゆっくりと僕に近付いてきました。
なに? なに? 何が想い出作りなの?
大男が僕がいるベッドに近付いてくると、片膝を折り曲げてベッドに乗せて来ました。
ベッドがきしみ、男の重みでそこの部分が沈みます。
僕の身体にゆっくりと覆い被さると、面白そうににやりと微笑みながら僕の睫毛を軽く親指で撫でました。
なんて不恰好な大きな手でしょう。
それに顔もなんだかいつもお怒りになっているような。
眉毛も唇も太い男です。
髪型は上部にふさふさとした毛を残しただけで後はすっかり刈られています。
目が細くて何処を見ているかわからないすわった目つき。
前にこんなおっかない顔して、なんで僕を抱きしめたのかがよくわらなかったのですが。
手の甲に毛が生えていて、どうも毛深い男のようです。
僕は脇にすら毛が生えない事を年頃になってすっごく悩んでいたので、少しだけ羨ましく思いました。
馬鹿にされないように更衣室でこそこそ着替えていた頃を思い出します。
あ~あ考えてみればあの頃からヘタレ。
そんな事はどうでもいいですね。
僕は何をされるのかわからずに困惑しました。
も、もしかして殺されるのかもしれない。そしてとうとう解剖でもされるのかと思いましたが、どうやらそんな感じではないようです。
そのまま男は僕の顔を見つめると、なんと! いきなり僕の頬をべろ~と舐めて来るではないですか!
ぎ、ぎゃあああああ! き、気持ち悪いよ~!!
「むぐぐぐぐ!!」
「ああ……汗で塩の味がする。しょっぱいな……」
……。
ひよぇぇぇぇぇぇぇ!!
変態です! みなさん~~!! この人変態ですぅ~。
変態警報発令!!
変態警報発令!!
みなさん僕の指示に従って避難してください~うああああ!
僕は身体を捩じらせて暴れました、きもっ、気持ち悪い~うえええええ!
さっきまで羨ましがってた事は全部否定します。
気持ち悪いですっ、きっと全身毛むくじゃらに違いありませんこの男は!
変態クマ男、何故か海上に現る! 現れましたよぉ~!
名物変態クマ男!
うわぁぁぁぁ! クマは山へ帰れ~!
僕が変態クマ男と命名した男は、遠慮無しに僕の頬だけではなく額や目の回りも舐めてきました。
瞼の上を舐められてすっかりべろべろにされ、目が彼の唾液で染みて痛いです。
ふぇぇぇぇ……。
そうこうしていくうちに僕の顔が変態クマ男の唾液でべろべろに。
気持ち悪いです死にそうです吐きそうです。
男の舌が楽しそうに這いまわって耳に達すると、耳たぶを口に含まれ吸われました。
ぎゃああああああ
ふぇっ、うああああ。
そのまま遠慮無しに生ぬるい舌が耳の周りでうろうろすると僕の右耳の穴に入ってきました。
ぐちょぐちょと唾液を含んだ舌の音が直に聞こえてそれがとてもいやらしいです。
流石にそこまでされると僕は軽いめまいに襲われました。
気持ち悪くて急に恐ろしくなってそれでもこの訳のわからないめまいで、泣きそうです。
「なぁ、兄ちゃん初めてだろ? 男同士は? 結構いいもんなんだぜ? こんな風に俺のあそこが兄ちゃんの後ろの穴に入っちゃうんだぜ?」
……。
ぎゃああああ!
はーい! 先生~そんなものそんなとこに入りません~!
入れません~!
断じて入れません~!
そんなのこの変態さんだけで~す!
男はそう言ってまた舌を耳の穴に入れます。
まるでそこでHをいたしているような仕草で男は腰を僕の腰に当てながら動かし、舌を耳の穴に入れたり出したりし続けました。
その度に僕は全身にぞくと鳥肌が立ち体が震えました。
うえぇっ、気持ち悪いよ~あううう嫌だよ~。
何度も言ってるけど、僕はヤル役でヤラれる役じゃありません~!
嫌です~ヤルのはいいけどヤラれるのは嫌です~!
むぐむぐ星人の僕には地球の人に訴える事はできません。
どうしたらいいのでしょうか。
あう、地球人さんとそろそろコンタクトが取りたいですー。
僕は首を一生懸命左右に振りました。
何度も生暖かくてねっとりした舌を入れられて僕はとうとう呻き声を上げてしまいました。
その呻き声を聞いて男がにやりとします。
僕の呻き声なんて聞いて何が楽しいんだ、この変態クマ! ~ぐうううう。
男は調子に乗ってきたのか毛の生えた大きな手が僕のズボンのファスナーを降ろそうとします!!
○@△×%$!!
シャ、シャケの収穫は今ではありませんよ~。
大きな手が僕のシャケを! もといっ、ぎゃああ触るなぁぁぁぁ!
もう我慢がなりません!
いくらヘタレでもヘタレの意地があります!
僕はミミズのように身体を折り曲げて、そこを死守しました!
ううっ頑張れ守! 負けるな守!
これで負けたら郷の親に申し訳が立たないぞ!!
なんで僕はこんな船の上で、臓器を売られそうになりながらその上に自分の股間を守るために戦っているのでしょうか!
まさかこの日の為に両親が゛守″という名をつけたなんて死んでも考えたくありません!
あああううあああ!!
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今日のご飯
……。
裏月灯りの絆君と永遠に☆ かにゃん まみ @kanyan_mami
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