10 長い休暇と近づく取立て屋

 こんにちは、守です!


 今日の収録で僕の2部の撮りは全部終了しました!


 そしてついでに3部のワンシーン。


 物思いにふけるシーンと瑠璃さんの回想シーンで僕が出てくるところもあっという間に終わりました。




 はぁ~。


 疲れたけれど、今回はとても充実しました!


 まだ瑠璃さんや他の人は2部の撮りが残っているようです。




 スタジオの端で収録の終わりホッと一息ついた僕を監督が手招きしました。


「ん~。守くん、喜びなさい」


「はい? なんでしょう」


「しばらく君に休暇をあげましょう」


「ええっ!!」


 普通の人はここで喜ぶ所でしょうが、僕は違います。


 なぜなら明日からの食料の調達が!!(汗) そして僕のシャワーライフが!!


「ど、どれくらいでしょうか?」


 僕は少々青ざめて、海倉監督に言うと監督はそんな僕の心中とはお構いなしに笑顔で


 「2週間v」 と微笑みました。




 2週間……。随分長いです。


 どうやら3部での僕の出番がしばらく後らしいです~。


 確かに台本にも10話以降にしか出てこなかったような……。


 ああ、しばらくドラマから消えるのですね~僕(涙)




 放送がついに開始されて、反響を頂きました。


 けれど僕と言うよりもちろん瑠璃さんへの熱いメッセージがほとんどです。


 でも、嬉しいですっ。


 僕は帰り道にお昼に偶然あまったお弁当一つを頂き、お弁当を抱えながら、ほくほく顔で家路に着きました。




 これ明日のご飯にしよう。




 帰り道の住宅街、さわさわ草が揺れる音がします、もうすっかり春ですね。


 生暖かな風が頬に心地いいです。




 明日からは、また短期バイトを探さなくては……。




 そう言えば最近取り立て屋が来ません。


 2部に入ってお金を払い、ムーンの事件があって以来それきりです。


 僕の家が何もないから、あきらめたのかな??


 そういえばあれから家のテレビもなくなっていました。


 どうやら僕がいない隙に勝手に部屋に上がりこんで持っていってしまったようです。


 あ~あ。




 なんて事を考えながら部屋に入ると、暗かった部屋がいきなりつきました。


 なんと取り立て屋が勝手に人の家に上がりこんでいました!! しかも今日は3人もいます!


 噂をすればなんとやらというのはこういうことなのでしょうか!


 しまったなぁ、そう言えば前に勝手に入られた時、僕は鍵を替えてもらおうと思っていたんだった。


 僕が家にいる時は内側からチェーンを掛けてしまうので、彼らは入って来れません。


 間違いなく前に会ったあの時の取立て屋……体が大きい方です!


 その他の連中は今日初めて見ました。


「また、勝手に!!」


 そう言う僕にいつもなら面白がって絡んでくる取立て屋の様子が変です。


 目つきの恐い大きな体の男が黙って僕に近付いてきます。




 あの……もしもし?


 なんかとてもオーラが恐いんですけど……。




 男はそれでも一瞬だけ悲しそうな目をすると、僕にゆっくりと低い声で話し掛けます。


「……金あるか?」


 あわわわ!!


 まだ3部のお金はもらっていません。


 というか明日から2週間も開いてしまうので再開してから頂く事になるのでしょう・・・。


「あっ、あの、今日はありません……でもご、後日必ず……」


「払えない奴はみんなそう言うんだよな。聞き飽きたってんだよ。今払え、すぐ払えないと大変な事になるぞ」


「だっ、だから、後日……って」


「そっか……後日か……」


 男は俯いて少しだけ考えるそぶりをすると、ふいに目を上げました。




 なっ、なんだか目が据わっているような……(涙)




「……仕方ないか……残念だが、XYZ計画を実行に移すしかないな。まぁ、そのためにボスは俺に指示したんだけどな……」


「はぁ? な、なんですか? XYZ計画って?!」


「可哀相だけどな……運命だと思ってあきらめな」


 そう言うと他の見たこともない連中の取り立て屋に目で合図します。


 2人が一斉に僕を押さえ始めました!


「なっ! 何するんですか!!」


 僕は狭いアパートの部屋で咄嗟に彼らの腕から逃れました。僕達はしばらく部屋の中をバタバタと暴れます。


 隣に気づかれてもかまいません! 


 と思ったのですが、隣にいた人は先日越してしまい、6棟あるこのアパートも実質3部屋しか人が住んでいません。


 一つの部屋の住人は2階の隣りの家の上に住んでいて、夜の商売らしく夜は誰もいません!!


 もう一つは1階の部屋ですが住人はどうやら耳の遠いおじいちゃんのようでそんな物音など聞こえるはずかありません!




 僕はなんだか男達の態度にとてつもない恐怖心が芽生え、大慌てでドアの側まで走ろうとしました。


 けれど大男が僕の前に立ちはだかるように待ち構えて、僕を体ごと押さえつけました。


「残念だ……」


 大男の表情が何故かとても悲しそうです。


「なんなんですかっ?!」


「今すぐには、もう払えないんだろ?」


「……」


 僕は何かないだろうかと部屋を見渡しました。確かにもう差し押さえられそうなものがありません。


 冷蔵庫すらないこの部屋で電化製品はおろかタンスさえありません。


 食器棚のような古ぼけたタンスだけはありますが……お金にもならないみたいで持っていかれていません。




 あ、ちなみにお米はお鍋で炊いています。


 最初ちと水につけたまま置くんです♪ で、始め強火で後弱火♪ 炊けたら蒸らしますv


 僕炊き加減上手いんですよv


 とか言っている場合じゃありません!!




「う……」


 僕は懸命に周りを見ましたが、た、確かにもう何もない! 涙が出るほど何もない……。


 よれよれの洋服くらいでしょうか……。




 あ! そうだ!!




「あ! あります!!」


 僕は大男の腕を払い、慌てて鞄に駆け寄りました。


 そして涙を飲んで、鞄から今日頂いたお弁当を差し出しました。


「バカヤロウ!!」


 


 ガスッ!




 鈍い音が聞こえたかと思うと、大男は勢いをつけて僕の頭を固い拳骨で殴っていました。




 あうう、痛いです~(TT)




「前々から思ってたが、お前、俺達をバカにしているだろう!!」


「おいっ」


 大男が目で他の男に指図すると男達は鞄から何かを取り出そうとしています。


 大男は悲しい目を僕に向けたまま、僕の腕を掴み思い切りねじ上げました。


「いたっ!!」




 本当に痛いです! とても痛いです~~(涙)




 どこからか持って来たロープを男達は僕の腕や足に縛りつけようとしました。


「なっ、冗談じゃないです! 警察を呼びますよ!! やめてください!!」


 僕が騒ごうとすると、一人が持参のガムテープでしょうか、それで口を塞がれてしまいました。


「むぐむぐ!!」


 僕の必死な抗議がむぐむぐ星人になってしまい、地球のみなさまに通じません!!




 あああ、そんなことどうでもいいんです!!




 そうこうしているうちに僕はロープで腕と足を縛り付けられてしまいました。


 あんなに抵抗したのに、やはり大人の男3人がかりではひとたまりもありません。


 大男が無言で僕のシャツに手を掛けました。


 どことなく顔が悲しそうで、そのくせ高揚しているので僕はぞっとしました。




 なにするんだこのホモ! ホモ男! 男の服脱がせて何が楽しいんだ!!!!




 大男は僕のシャツをはぎとるように乱暴にめくりました。


 もう春ですが夜ということもあり、まだ外気が冷たいです。


 僕は目で抗議しました。この変態男! 僕はヤル役だけどお前みたいな変態巨人男にヤラれる役じゃないぞ!!


 大男を投げるイメージが沸きましたが、ドラマのようになるはずもありません……。


 うううう;;;


 


 僕の上半身が裸にされると入り口から4人目の男が入ってきました。


「先生、どうですか?」


 先生と呼ばれた男は白衣を着ています。


「うむっ」


 聴診器らしいものを僕の胸にしばらく当てて頷きます。




 ドクタープレイかよ?!


 ここはコスプレランドか!!


 ああ、なんでそんなこと僕知っているんだろう……。


 いえ、白状すると一度だけ受け付けのバイトしたことがあるのです。




「うん、どこの臓器も健康そうだ」




 な!! どういうこと?




「これならどこの部分もそれなりに売れるだろう」




 うえええええええええ?!


 なんて事だ! 山田さん!!




 臓器って売るって? 何? 何なにぃぃぃぃぃ!!


 雑木? 造機? 雑巾?! ああギャグも冴えないっ!


 僕は流石に事の事態に焦り身体をばたつかせました。




 ひっ!! こっ殺されるぅぅぅぅ!!!!




「そう言うことだ、それなりに売れるらしいぜ。まぁ、お前が一生働くよりはお前の体のありとあらゆる臓器を売っちまう方がよっぽど金にはなるだろうな……。まだ若いから、貰い手も沢山あるだろうよ」


 そう言うと一人が僕に何か液体を染み込ませたハンカチを吸わせようとそれを鼻に押さえてきました。




 うっそ……。




 僕は一瞬色々な思い出が脳裏を駆け巡りました。


 あうう……こ、これは俗にいう走馬灯と言う奴でしょうか?




 ある日突然、人には死というものが訪れるといいます


 けれどこんな形で失う事になるなんて……。凄く悲しいです……。




 僕の人生は確かにあまりいいことはないけど、高校の時にたった一度だけ付き合うことが出来た女子に手痛く振られたり、今現在も彼女いないし、失敗ばかりで、本番に弱くて、借金も抱えてて頑張ってみたけど結局肝心な所でだめで、気弱で、ヘタレな自分だけど。




 あ、色々思い出したら凹んできました……。




 はうっ! で、でもこんなどうしようもない僕だったけど、ああ! もう過去形になってるぅぅう。


 こんなのあんまりだよ……。




 目の前が涙で霞んできました。


 僕は限界まで息を止めていましたが、そうそう長いこと止めておける訳がありません。


 もう苦しいです……限界です……。


 限界に達してくると足が震えてきます……苦しくて苦しくて……とうとう息を吸い込みました。


 液体の臭いが凄くて……眠気が襲ってきました。




 さようならみなさん……。




 僕はこれで最後なのに、なぜだか脳裏にムーンが思い浮かんでしまいました。


 そしてああ、瑠璃さんの家にあげてしまってよかったな……なんてほっとしたりしています。




 郷の両親……。


 瑠璃さんや海倉監督、ミュートさんや桐香さん、そして彰人、鶫……。


 最後に何故だか隆二さんの笑顔が浮かびました。


 それを考えたらなんだか気持ちが暖かくなって……。


 変なの……おかしいですね。




 僕は誰かの役に立てたのかなぁ……。


 あ、そっか……臓器を売られるって事は役には立つんだな……。


 ヘタレな臓器でみなさんごめんなさい。


 ドラマは僕みたいな平凡な役なら、きっとキャストが代わっても大丈夫でしょう。




 僕はそのまま男達のいる前で意識が遠のいていきました。




 へへ……くやしいけど……僕の代わりは……いくらでもいる……よね……。






2部終了 3部へ




今日のご飯




……。

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