9 三章の出演者さん達
おはようございます、守です。
今日はいつもより早くスタジオ入りです。
僕がてくてくと歩いてスタジオの入り口に差し掛かり、例の警備員が退くのをふふんと見てその場を過ぎ去ろうとするともの凄いバイクの音が後方から聞こえて来ました。
「なっ、なんだ?」
僕が慌てて振り返ると、バイクは急接近して、速度も緩めずにすれすれで僕の横を通過して行きました!
おまけに二人乗りです、スピードも下げないなんて!
「あぶっ、危ないなぁ! 気をつけろ!!」
僕が叫ぶと、バイクは急停止します。
「あ、やば……」
後ろに乗っていた少年がヘルメットを取ると、黒い髪が風になびきました。
一瞬だけ僕を見つめるその視線の鋭さに、僕は息を呑んでしまいました。
こっ、こわっ……。
みっ、見なかったことにしよう……。
けれどその少年より問題はそのバイクを操縦していた男の人です。
黒いライダースーツを身にまとった人も同じようにヘルメットを取ると、彼はグリーンの髪の毛をかき揚げました、ゆっくりとこちらに向き直った時は何故だが険しい表情をされていました……。
僕の叫びに気が付いたらしくその人はライダースーツの皮をきしませ、こちらにやってきます。
「よぉ、今なんか言ったか、お前」
「えっ! なんか言いました?」
「なんか言ったかって俺が聞いてんだよ!」
グリーンの髪をした少年は目つきが鋭くて恐いです!!
「やめとけよ、鶫、だからスピード出しすぎじゃねぇの? って言ったのによ」
後から来た黒髪の少年は瞳が赤くて熱血少年な感じです。
というかわざわざ恐い顔のパーツを集めた恐い顔の総合デパートみたいな顔です。
要するに恐いです。
「なんだよ、彰人、お前が送ってけっていうから、わざわざ朝早くに家までバイク飛ばしてやったんだろ」
「まぁ、そりゃそうだけどよ、だからって時間まだあんだから、別に無理して飛ばさないでもいいだろ?」
「バーカ、朝はブツ飛ばさねぇと間に合わねぇんだよ」
……なんだか2人ともとてもお言葉が乱暴な感じです。
僕は少しだけ口がバッテンです。
あまり関わりあいにならない方がいいだろうと、僕がゆっくりとその場を去ろうとすると、鶫という人がそれを見逃さずに僕のカーディガンの裾を掴みました。
「そうだ、おい、お前さっき何か言っただろ?」
うわっ、もう忘れていいのに! また僕を恐い目で睨みます!!
「いっ、いえ何も……」
僕が慌てていると、鶫と呼ばれた少年は僕を軽く一瞥しました。
「ふん、ま、いっか。……ところでお前、第2スタジオはどこだかわかるか?」
「ええと……」
僕もこれから第2スタジオに向かおうとしていたのでそこを指で指し示そうとしたのですが
「わかるわけないじゃん、鶫、そんな一般人に」
「それもそっか、行こうぜ彰人」
とあっさり言われ、二人は向こうのスタジオに消えて行きました。
「あの~そっちは第1スタジオですよぉ~」
僕の小さな囁きなど2人には聞こえませんでした。
僕がスタジオに入り、残りのシーンを撮る為に台本を眺めていると、しばらくしてからバタバタとあの2人が入ってきました。
……やばっ。
僕はなんとなく隠れたい心境になり、機材の陰に隠れます。
ああ、なんか僕……とことん小心者。
「んん~? 随分遅かったな、彰人、鶫」
監督がどうしたんだ? と言う顔をして二人を見ました。
「すまねぇな監督、こっちのスタジオ初めてでさ~迷っちまった!」
黒髪の少年が照れ笑いを浮かべていました。
相変わらずオーバーアクションです。
「まぁ今日はセリフ合わせだからいいけど。そうだ、みんな来い。3部からの新しいメンバーを紹介する」
監督がそう言うとみんな一斉に彼らを見ます。
一番近くにいた瑠璃さんが最初に気がついて目を輝かせていました。
「久しぶり、2人とも……元気だった?」
隆二さんは2人の顔見知りらしく、笑顔で接していました。
「隆二さん、こんにちは、お久しぶりです!」
いきなり鶫という少年が敬語を使い出しました! びっくりです。丁寧なお言葉も使えるみたいです!
「こんにちは! 鶫、彰人!」
瑠璃さんも笑顔で接しています。
「で……あれ? 守くんは?」
海倉監督がなんとなく僕を探して視線を泳がせていました。
やっぱ行かないと……だめですよねぇ……。
僕はなんとなく恐る恐る彼等の元へ近付きました。
「ええと、彼で最後かな? 鶫、彰人、この人が瑠璃の相手役の守くん」
「こ、こんにちは~~……」
「どもっ……って! ああ、てめぇは! このやろ!!」
「うお! お前は!!」
2人は僕を見て、またしても恐い顔パーツの総合デパートな顔をされます。
「てめぇ! さっき第2スタジオはどこだって聞いただろうが!!」
「いや、そのっ」
一般人扱いしたくせに~~!!(涙)
「うん? 3人とも面識あるの?」
瑠璃さんがキョトンとした目で見つめます。
「ああ、こいつ、さっき俺達が第二スタジオの場所聞いたのにシカトしたんだぜ!」
「そっ、そんな事してませんよ~」
「じゃ、なんで教えなかったんだよ!」
「教えました~~」
「嘘つけ!!」
「すみません(><)」
ひぇ~恐いですぅ。
なんかダブルで迫力のある顔で睨みつけられると、何か僕がいけないことしたみたいです。
2人で睨み付けないで欲しいです。
僕は全然悪くないのに、なんとなく無意識に謝ってしまいました。
なんだかくやしいです。
「こらこら、鶫くん、彰人くん、仮にも彼は君等の年上だよ、いくらこの業界では後輩でも、もう少し丁寧語使いなさい」
隆二さんが2人にビシッと言うと二人は途端に大人しくなりました。
「あ、すいませんす、隆二さん」
「てっきり一般人だと思ったもんだから」
一般人……。
「守くん、君ももっとばしっと言わなきゃ、言われっ放しじゃだめだよ。君が道教えたのに彼らのことだからロクに聞かずに行ってしまったんだろ? 確かに鶫君くん達の方が芸暦は長いから、君も丁寧語使わないといけないかもしれないけど。今はそれとこれとは話が違うのだから」
「はっ、はい、すみません」
そ、そうですよね、それとこれとは別です。
はわわ芸能界は恐いです~
つうか僕に対するのと隆二さんに対する態度が全然違うじゃないか!!
鶫&彰人!!
……後輩だからなのかな……。
それにしても隆二さんって凄いなぁ。なんだか隆二さんってかっこいいな、何しても完璧で……。
はっきり物言うしなぁ。僕とは大違いだ。
その時憧れと同時に、僕は少し凹みました。彼に対して嫉妬心が少しだけ芽生えてきてしまいました。
天と地との差の彼に嫉妬しても仕方ないんですけどね……。
はぁ……。
けれど、後々この人の事が僕の中でとても大きくなり、それに伴い僕の劣等感や彼に対する憧れの感情がどんどん大きくなっていく事になろうとはその時は夢にも思いませんでした。
NEXT 長い休暇と近づく取立て屋
今日のご飯
お弁当がお休み(涙)
食堂でかけそば・・・。
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