8 ばっさりと切られた髪
今日、僕は興奮しています!
だ、だってですよ! 魅っ魅来さ、さ、さんと、きっキッス!!
高校以来です!! 婦女子の唇に!!
そう思うとまた昨晩から興奮して寝られませんでした。
ああ、この役もらって本当に良かった!!(感涙)
「じゃ、守くん、魅来さんとキスしている振りして」
「は?」
「カメラアングルで、ばっちりキスしているように見せるから」
そう監督に言われて僕は体中の力が抜けました。
が、がっくり、キッスできないんですか?
ああ、僕の甘い夢が……。
昨日から興奮して寝られなかった僕のこの純な気持ちを返して下さい……ううっ。
「守くん? まさかこんな美少女と、そんなに簡単にキスできるとか思ってたわけ~~?」
監督がにやけていいます。くうう、監督……意地悪ッス……。
僕は心の中で涙ぐみました。
ところでそんな話はいいとして。(よくありませんけど)
瑠璃さんとある少年の生と死の話に、僕は本当に涙ぐんでしまいました。
本当はその時間は休憩タイムだったのですが、台本を読んでいて、是非そのシーンは見たかったのです。
結構真面目なお話なんですね、『月灯りの絆』って、ううっ、キツイです辛いです。
スタッフの間からも少し鼻を啜る音が聞こえてきます。
僕もなんだかうるうるしてきて……。
はぅっ! 隆二さんに僕の涙目を見られてしまいましたぁ!!
僕は慌てて視線を逸らしました。
隆二さんもこの後のシーンがあったのでスタンバッていたのですが、僕の顔をわざと覗き込みます。
僕は声を出せないので、ジェスチャーでやめてくださいと手を振ります。
隆二さんはにやにやしていました。
意地悪な人です!!
その後僕の一人のシーンを先に撮ってしまい、午後は外で魅来さんとの車の中でのシーンです。
スタジオ内にムーンがいてムーンは僕と生活してた以上に僕を見つけると、走り寄ってきます。
可愛いやつめ。手放した途端なんだか切ないです。
「ムーン! この~!!」
僕はムーンに飛びついて久しぶりに彼をもみくちゃにしました。ムーンは興奮してもう大変でした。(僕もですけど)
それを周りの瑠璃さんや隆二さん、みんなが見て笑います。ほとんど格闘に近いくらい一匹と一人で揉み合っていました。ムーンなんだか元気みたいで嬉しいです。
その時スタッフの一人が僕達の元へ来ました。
「おい、みんな4部大幅に変わった脚本完成版が今届いたんだけど、先にもらいたい人は第2スタジオに来て」
スタッフの一人がそう言うと何人かがスタジオに向かいました。
「あれ? 守くんは行かないの?」
スタッフの1人に言われましたが、僕はいいんです。
3部があるし、手元にある物しか考えられません……。
先の事は先の事です! ええ。
車のシーンは夜を待って、近未来の街並みを再現した博物館へ行きます。
そこは広くてライティングも暗いのでごまかしが効くそうです。
その前に腹ごしらえという事で、魅来さんと白連さんとで近くのお蕎麦屋さんに食事をしに行きました。
「守くん、こういうドラマ初めてだって聞きましたよ」
白連さんがてんぷらソバを口にして言います。
「あ、はい、そうなんです、今まで小劇場の舞台ばかりだったから、ドラマの撮影なんて初めてで。舞台と勝手が違うから戸惑いますね……」
「そうなんだ、でも結構上手いじゃないですか」
「それほどでも~」
「守さん、今後も色々大変みたいですね」
「え? 何がですか魅来さん?」
僕が不思議そうに尋ねると、白連さんが魅来さんに何か耳打ちしています。
え? え? 何?
「あっ、そういうこと……えっ、ええと、ごめんなさい、なんでもないの……」
僕は訳がわかりません。
僕はかけそばとミニ天丼をかきこむと、お腹いっぱいになってしまい、少し眠くなった目をこすってみんなと夜の撮影に向かいました。
ああ、シャンプーがない!
夜のスタジオの浴室でシャワーを浴びて濡らした髪の毛のまま僕は困りました。
僕はこのドラマが始まった時からずっとスタジオでシャワーを浴びてから帰ります。
銭湯代が完璧に浮いて助かっています。
スタジオで長いながらも切りそろえてもらい、綺麗に束ねて撮影に望んでいたこの髪型。
そう、この髪型も明日でお別れです。
明日髪を切るシーンがあります。髪を切るシーンは側近服を着た美容師さんらしいんですよ~。
やっとこのうっとおしい髪とお別れです。でもボブなんて僕に似合うんでしょうか、少し心配です。
僕はこの先もっとキリッとした役をやらないといけません。
気を抜くとすぐ猫背になってしまうから、とても緊張しています。
2,3日帰りがとても寂しかったけれど、犬小屋も処分して何もなくなった玄関先も、一週間もすると慣れてきました。毎日スタジオでムーンの顔は見れるから、だから……大丈夫。
髪を短くして身なりも整うと周りのスタッフさんが声を掛けてきました。
「んん? 結構いい男じゃないか? ふぅ~ん、楽しみだね!」
「何がですか?」
みんなの見る目つきがどうもさっきから変なんですよね?
何ででしょうか?
まぁ、僕が身綺麗にすればこんなもんですよ!
えへへ。
ってそういうことですよねぇ?
さて、2部の撮影も大詰め!
僕は随分走り回ったり色々しないといけません。
柔道と空手と合気道と何かしたことがあるか? と言われて、僕は合気道と答えました、ほんとなんですよ~田舎の高校の授業でやったのです。
それとまぁ僕の家族の一人がが合気道をしていて何度か教わった事があります。
攻撃な技ではなく受身ばかりでしたけど、何かあったら恐い世の中ですからね。
覚えておいて損はないと思いました。
「守くん! そろそろ3部の台本渡そうか? ……それとも4部まで渡す?」
そう監督に言われて僕は3部の台本だけ頂きました。
「なんか先がわからない方が後が楽しみじゃないですか~どう変わるか楽しみで!」
「えっ、あっ、そう……そうだね」
翌日、1日走り回って撮影したら、すっごく気持ちのいい汗がかけました!
ああ、なんか順調だなぁ!
3部が始まったらまた契約金もらえるから、そうしたらまたしばらくは差し押さえなくなるし!
なんか順調だ~久しぶりの幸福感! 大男を投げ飛ばしたりなんかいい感じ。
隆二さんと格闘したりして、凄くかっこいい!!
ああ、ここだけ田舎の両親に見せたい気分です。
それで瑠璃さんを救って、きっと3部、4部でハッピーエンドなんですよ!
きっとそうに違いありません!
3部の台本を読んで終わり方がとても明るかったので僕はそう確信しました!
僕は帰り道スタジオの外で気持ちがいいので夜空を見上げてしまいました。
ああ、なんか最高に気分がいいや!
だいぶ遅くなったので隆二さんが車で送ってくれました。
僕は車の中でとても上機嫌です。
「あれ? なんか凄く機嫌がいいね」
「あ、ええ、そうなんですよ~、今日の僕、格好よかったでしょ?」
「ん、まっ、まぁね……僕は格好悪かったけどね」
少ししおれた振りをした隆二さんを見て、僕は笑いがこみ上げてきてしまいました。
「そうですよね! 隆二さんかっこ悪かった!!」
僕は前に僕の涙目を笑っていた事のお返しに、隆二さんを指差して笑ってしまいました。
「ふふん、笑っているのも今のうちだよ守くん」
「何がですか? だって、隆二さん格好いい人なのにですよ! 僕なんかにやられちゃって、もうおかしくて!」
「……まぁ、いっか」
僕は隆二さんが拗ねるのを見てまた笑ってしまいました。
ああ、本当に今日はいい気分だぁ……。
僕のシーンだけ先にどんどん撮り、こうして僕は一人で先にどんどん2部をとって行きます。
後は病院のシーンだけです!
車の中で街の流れる景色を見ていたら、なんとなく僕は幸福感で眠ってしまいました。
NEXT 3部の出演者さん達
3日分のご飯;
ソバ定食(かけそばとミニ天丼のセット)
チャーハン弁当。
緑茶。
クリームコロッケとお惣菜のお弁当。
オレンジジュース。
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