2人は……?

 次の日、俺は講義を受けていた。隣には友香の姿がある。

昨日の一件の後、彼女は何か吹っ切れたようで、今まで以上に俺に対して明るく接してくるようになっていた。


 そんな彼女を横目でチラリと見る。


(やっぱり可愛い……)


 俺は改めてそう思った。それと同時に、罪悪感が込み上げてくる。


(俺は何を考えてんだ……。友香には彼氏がいるんだぞ……)


 こんなことを考えてしまう自分が情けなかった。俺は邪念を振り払うために、軽く頭を振る。


 その時、不意に友香と目が合った。慌てて逸らすが、心臓の鼓動は速くなっていた。


 その後も、何度か友香の方を見てしまいそうになる。しかし、なんとか我慢して講義に集中することができた。



 やがて講義が終わり、昼休みになると、友香は俺の袖をクイっと引っ張ってきた。


「ねえ、友一。……昨日はごめんね。お詫びといっちゃなんだけど、今日は私が奢るから学食行こうよ」


「えっ!? いや、別にいいよ」


 突然の申し出に驚く俺だったが、友香は引き下がらない。


「遠慮しないで! ほら、行こ?」


 半ば強引に連れていかれる形で、俺と友香は食堂に向かった。



 昼食を食べ終え、次の講義まで時間があった俺たちは、カフェテリアに移動した。

 コーヒーを飲みながら、俺はふと思ったことを友香に聞いてみた。


「……なぁ、友香。昨日の電話って、誰からだったんだ?」


 すると、彼女は少し不機嫌そうな顔をした。


「……あぁ、あれ?元カレからだよ」


(元カレ……?今付き合ってるんじゃないのか?)


 不思議に思っていると、友香はこう続けた。


「デートに誘われて、行ったんだけどさ……。あの人、ずーっと自分の話ばっかりするのよ!」


「お、おう……」


 俺は圧倒されてしまったが、彼女の話は止まらない。


「あげく、『話はそれだけだから』なんて言ってすぐ帰っちゃうし!いくら顔が良くたって、性格がアレじゃ無理よ!」


「そ、そうなのか……」


 あまりの剣幕に、俺はそう言うので精一杯だった。


「そうよ!だから、私から別れてやったの。……あの後、知らない人に話しかけられるなんて思わなかったけど……」


(……そうだったのか。だから、あの時友香は一人でいたんだな)


 俺は納得しつつ、一つ気になったことがあったので尋ねてみる。


「なぁ、友香。あの時俺を呼んだのは、偶然か?」

(多分、電話の履歴からかけたからだと思うが……)


 すると、友香はキョトンとした顔になる。


「違うけど……?」


(……えっ?)


 予想外の返事に戸惑ってしまった。俺は、思わず聞き返す。


「ち、違ったのか?」


「うん。だって、友一なら助けに来てくれると思ってたもん」


「なん……だと……」


 その言葉に、俺は衝撃を受けた。


(つまりなんだ?友香は俺のことを……?)


 俺は混乱した。

 そのせいで、しばらく沈黙してしまう。すると、友香は不安げな表情で俺の顔を見た。


「ど、どうかした?」


「……あぁ、いや、なんでもない」


 俺は平静を装いながら答える。


(……まてよ?今、友香はフリーってことだよな?)


 これはチャンスだと思いつつ、彼女は自分を友達だとしか思っていないだろうとも思った。



 俺はどうすべきか悩んだ結果――何もしないことに決めた。


「そういえば、友一は好きな人とかいるの?」


「は?」


 唐突にそんな質問をされ、俺は間抜けな声を出してしまった。


「い、いや、特にいないが……」


「へぇー」


 友香はニヤッと笑うと、「じゃあさ……」と言って続けた。


「私のことはどう思ってるのかなーって」


「……は?何言ってんだ?お前は友達だろ?」


 俺はそう答えたが、内心ではドキドキしていた。すると、友香はどこか憂いを帯びたような顔をして言った。


「『友達』、ね……。ねぇ、友一。前に『男女の友情は成立するか』って話したの、覚える?」


「ああ、もちろんだ」


「その時、友一は『成立する』って言ってたよね。……今は、どう思ってる?」


 友香にそう聞かれて、俺は返答に悩んでしまった。

 俺は、友香のことを友達だと考えていたが、いつの間にかそれ以上の存在になっていたからだ。


「……正直、わかんね」


 結局、俺は曖昧な答えを出した。すると、友香は「そっか」と言った後、俺の目を見て言った。



「私は、友一のことが好き」


「……は?それ、どういう意味だよ」


「……『ライク』じゃなくて、『ラブ』の意味。……なんか、この前助けてもらってから、友一のことが男の人として気になりだしちゃってさ。今まで、恋愛感情なんてない親友だと思ってたのに……。……ううん、多分そう思い込んでただけで、ずっと『好き』だったんだと思う」


 友香は照れたように笑いながら言う。俺は、彼女の告白を聞いて頭が真っ白になってしまった。

 黙っている俺に、彼女は断られたのだと思ったのか悲しげな声で呟く。


「……ごめんね?いきなり変なこと言っちゃって……。元カレと別れた直後にこんなこと言うなんて、都合の良い女だ ってことは自分でもわかってる。……前も言ったけど、私は女だからさ、恋愛のことしか考えられない生き物なんだろうなって……」


 俺は、どう答えるべきかわからなかった。彼女はさらに続ける。

 友香は感情が昂ると、一方的に話を進めるクセがあった。


「……やっぱり今のは忘れて。でも、私が友一を好きなのは本当だから……。今まで通り――」



 そこまで聞いて、俺は話を遮った。


「待てよ!勝手に自己完結すんなよ!」


「……え?」


 彼女は驚いた顔をする。俺は、自分の気持ちを伝えることにした。


「俺も同じだ。俺も、友香のことが好きだ」


 そう告げると、友香は目を丸くする。そして、信じられないという顔をした後、嬉しそうにはにかみながら笑った。

 その笑顔は、今まで見た中で最高に可愛かった。


(あぁ、やっぱり俺は友香のことが……)


 改めてそう思いながらも、俺はあることに気がついていた。

 それは、彼女にまだ肝心なことを聞けていないということだ。


「なぁ、友香。俺らは両想いなわけだが……、俺と付き合ってくれんのか?」


 そう尋ねると、彼女は一瞬ポカンとしてからクスリと笑って答える。


「もう、そんなの決まってるじゃん!」


 こうして、俺たちは恋人同士になったのだった。



 それから数日が経つと、俺と友香はいつも通りの日常を取り戻していた。


 変わったことがあるとすれば、二人で一緒に過ごす時間が増えたということだ。相変わらず、俺は友香のわがままに振り回されていた。

 しかし、そんな日々を悪くないと思える自分がいることに、俺は少し驚いていた。



 ある日の放課後、俺と友香はカフェテリアにいた。そこで、俺は友香にあることを尋ねた。


「なぁ、友香。前から聞こうと思ってたんだが、お前は俺のことをどう思ってるんだ?」


 すると彼女は、キョトンとした顔で首を傾げる。


「えっ?急にどうしたの?」


「いいから教えてくれよ」


 俺が真剣な顔で言うと、彼女は戸惑いつつも口を開いた。


「えっと……。最初は、ただのお節介な人だなって思ったけど……。最近は頼りになるなって思うようになったよ」


「他には?」


「他?……そうだなぁ……。……あっ!あと、優しいところとか……カッコイイなぁとは思ってるよ!」


 そう言いながら、友香は恥ずかしそうにはにかむ。その様子にドキッとしながらも、俺は彼女の話を聞き続けた。


「それにしても、どうしてこんなこと聞くの?」


「いや、ちょっと気になってさ……」


 俺は適当にはぐらかす。すると、友香は不機嫌そうな顔になった。


「……友一ばっかりズルい!ねぇ、友一は私のことどう思ってるの?」


「は?いや、そりゃあ……」


 俺は咄嵯に誤魔化そうとしたが、すぐに諦めた。なぜなら、友香がジト目で俺を見ていたからだ。


「……わかったよ。言うからそんな目で見るな」


「よろしい!」


 友香は満足げに微笑んだ後、俺の答えを待つかのように黙り込む。俺は観念して口を開く。


「俺は……可愛いなぁと思ってる。なんつーか……一緒にいて安心するし、楽しいとも思ってる。……まぁ、そういう感じだ」


 俺がそう言うと、友香は少し俯いた。耳まで赤くなっているのが見える。


(あぁ、クソ!めっちゃかわいいな……)


 そう思っていると、友香は上目遣いでこちらを見ながら言った。


「そっか……。ありがとう」


「……おう」



 その様子があまりに愛おしくて、俺は思わず友香を抱きしめてしまった。


「ちょっ!?友一、ここ学校だよ!」


「大丈夫だ。誰もいないから」


「で、でも……」


 友香はまだ何か言っていたが、俺は構わず続けた。


「なぁ、友香……。俺ら、これからもっと仲良くなろうぜ」


「う、うん……」


 そう言ってから、俺たちはしばらくの間そのままでいた。

 


 しばらくしてから、俺はゆっくりと彼女を離した。


「はは……。……でもまぁ、こんなわがまま女と付き合えるのは、俺くらいだろうな……」


 なんだか照れくさくなって、俺は小さく呟く。すると、友香には聞こえていたらしく、「なによそれ!失礼ね!」なんて小突かれてしまった。


「冗談だよ」と伝えると彼女は笑った。そして、二人で笑い合った。



 俺と友香は、周りから見たらどう見えるだろうか。気の合う友人同士?それとも仲の良い恋人同士?


 ……俺たちの間にあるのが友情でも愛情でも、俺にとって友香が大切な人であることに変わりはない。


 だから、彼女とはこれからもずっと良い関係でいたい。そう強く願ったのだった。

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男女の友情は成立するか? 夜桜くらは @corone2121

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