第35話:どっとはらい

「そんなことになったんだ……」


 驚きと共に、安堵した様子でジャンがこの度無事お義母さんとなったマリエルさんと見つめあうお義父さんを見た。そしてすぐに眼をそらす。うん、その気持ち分かるよ。

 お義父さんマスターマリエルさんのお陰で私の貯金放出は見送りになり、ジャンはそのままディドゥエ家の養子のジャン・ディドゥエ家として暮らせるようになり、ダニエルがジャンの婚約者に決まったので報告会を開いたんだ、けど……。お義父さんが「貴族がホイホイ出歩く訳なかろう!」って言うからディドゥエ家で開いたのは間違いだったかもしれない。

 お互いしか見ていないお義父さんとマリエルさんを全力で見ないようにしてるから首が痛い。薬屋で開いちゃえばよかった。

 ジャンもダニエルもお義父さんの変わり様にドン引いている。使用人もドン引いている。今までが今までだったからね、仕方ないね。今日のおやつはちゃんと煎餅にしたよ!

 部屋の空気が砂糖まみれになるくらいなんだい、全て丸く収まって良かったよ。終わりよければ全て良し、ヨシ!

 マリエルさんが気にしていたお義父さんの対面はバジルさんが噂を流してなんとかなったらしい。

 流した噂は『身分にとらわれず愛した人を待ち続けたディドゥエ家の当主って一途で高潔だよね、さすが騎士を多く輩出してるだけあるわー』『元平民の妻の勧めで養子にした平民はめちゃくちゃ才能があって、しかも努力家なんだって! お義父さんも奥さんも人を見る眼があるんだね!』というもので、けっこう評判が良いようだ。少なくとも表立ってジャン達をどうこういう奴はいないと聞いた。

 ダニエルのことも『森の魔女』の教えを受けている『次代の魔女』が婚約者、ということで羨望半分、嫉妬半分の反応をジャンは受けているのだとか。

 ふふん、ダニエルの素晴らしさに気付くのがちょーっと遅かったようだねえ!


「ありがとう、オディル。この恩は一生かけて返すよ」

「いいよ、いいよ。気にしないで」


 やっぱりジャンは義理堅い。でも本当にいいんだ、気にしないで。

 意外と嫉妬深いダニエルが疑いの眼で私を見ちゃうから。そんな視線もご褒美なんですけどね。


「君達が一緒にいるだけで価値があるんだよ、はあ尊い。どうかそのまま末長く幸せでいて、離れずに側にいて、お願い。私の幸せのために。結婚式の日取りが決まったら教えてね、ご祝儀大奮発するから」

「なんだこいつ、気持ちわりぃ」


 感動に打ち震えながら懇願しただけなのにこの態度! ありがとうございます!


「こら、僕達のためにいろいろ働きかけてくれてたのに、そんなこと言ったらだめだよ」


 ジャンに嗜められて拗ねるダニエル、めちゃかわ遺産登録決定。尊すぎて部屋の隅に待機していた同志おねえさんも膝から崩れ落ちるよ。私もソファに座ってなかったら危なかった。


 こうして、ジャンは今日も騎士団の入団に向けて頑張っているし、ダニエルは堂々とディドゥエ家の正門を潜ってジャンの元に通っている。ダニエルはマリエルさんとも仲が良くて、マリエルさんに構ってもらえずに拗ねるお義父さんが時々見られるらしい。

「森の魔女」の後継であるダニエルが貴族の養子プランを使ってジャンに嫁入りするかは近い将来に話し合いが必要になるが、クレールさんは「貴族の奥さんをやりながらでも魔女はできるよ~」と朗らかに笑っている。

 クレールさんが言うならそうなんだろうな。仕事の出来るしごできバジルさんもいるし、なんとかなるだろう。

 そんなわけで今日もダニエルは笑っている。最近は毎日がダニエルの尊さ数値更新日だ。推しの幸せな笑顔尊い。

 推しの幸せを拝むまで死ねないと思ってたけど、まだまだ長生きして推しの幸せを見届けなくっちゃな!

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推しの幸せを見届けるまで死ねない【千PV感謝】 結城暁 @Satoru_Yuki

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