第3話 木村智現る

莉緒「蓮!お待たせ!」

蓮「姉さん」

莉緒「いや〜、最後の最後でちょいミスすちゃって、三十分も残業しちゃった笑」

蓮「家の近くのコンビニで一本奢ってよ〜」

莉緒「もちろんもちろん」

姉と楽しく会話してる内に会社の最寄り駅に何事もなく到着した。

蓮「拍子抜けするくらいになにもなかったね」

姉の顔がこわばっている。

蓮「姉さん?」

莉緒「いる」

蓮「まさか!」

俺はすぐさま姉さんの目線の先に目をやった。

だがこちらを向いている視線は、どこにもない。

蓮「どこにもそれらしき男は、いない、よ」

莉緒「もう行った」

蓮「ごめん、わかんなかった」

莉緒「んーん、いいの、すぐに人混みに消えたから」

蓮「まさか後ろからじゃなくて既に駅構内に入り込んでたなんて」

莉緒「エスカレートしてるわ」

蓮「そうだね、待ち構えられてるなんて」

莉緒「蓮がいなかったら、もしかしたらヤバかったかもしれない」

蓮「明日も来週も迎えに来るから大丈夫、大学生の特権笑」

莉緒「ありがと、こればかりは頼っちゃうわ」

蓮「うんうん、頼って頼って」

愛する姉さんをこんなに困らせるなんて許せん。

早いところ成敗せねば。


翌週の金曜日

莉緒「このまま自然消滅してくれればいいのにね〜」

蓮「そうだね!」

先週駅構内にいたという日から、今日まで存在も気配も全く感じられなかった。

だけどこういう悪いことって、そんな少し油断した時に起きるものだ。

そして今回もその例外ではなかった。

自宅の最寄り駅に着いて、改札を抜けた時だった。

姉さんが目を丸くしている。

まさかと思い、今度は話しかけずにそのまま姉さんの目線の先に目をやった。

40歳近い、目つきの鋭い、不気味な感じの男がロータリーの黒のワゴン車からこっちを見ているではないか。

蓮「姉さん、あれってもしかして」

莉緒「そうよ、あの男がそれよ」

蓮「ちょっと行ってくるよ」

早足で近づいてくる俺を見てそいつは直ぐに車を出した。

ナンバーはしっかりとおさえた。

これを警察に渡せば、一件落着か?

蓮「これ、あいつのナンバー、ばっちしとったよ」

莉緒「でかしたわ!明日警察署にいきましょう」


翌日に二人で警察に行った。

事情を説明し、調査をお願いした。

この調査が無事に終わり、あいつが捕まるまでは、姉さんを厳重に保護しなくてはいけない。自宅の最寄り駅までバレ、黒のワゴン車で待ち構えてるなんて恐ろし過ぎる。次の段階では、確実に物理的に何か仕掛けてくるつもりに違いない。

今はただ、警察の調査結果を固唾を飲んで待つしかない。

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