畜生

結騎 了

#365日ショートショート 171

「ほぅら、餌よ」「わん!わんわん!」

 僕は勢いよく餌ケースに頭を突っ込んだ。ご主人様に飼われてから半年、餌のクオリティは少しずつ下がっているが、食べられない訳ではない。いただけるだけ嬉しいというもの。

「はあ、しかし最近は抜け毛が酷いわね」

 ご主人様はご自慢のネイルを眺めながら呟いた。ごめんなさい。それは僕も感じていました。ご主人様の綺麗なおうちに抜け毛を撒き散らしてしまうのを、申し訳なく思っています。

「あ、そういえば」

 すくっと立ち上がり、ご主人様は壁のカレンダーを見た。

「ここからここの一週間、友達と海外旅行に行ってくるから。あなたは自分でなんとかしてね」

 ええっ、そんな。ひどい。飼われている動物といえど、ひとりぼっちは辛いです。何より……

「話が違います。週に一度は構ってくれるって話だったじゃないですか」

「おいおい、人の言葉を話すんじゃないよ。変態ハゲおやじのくせに」

 しまった。話が違うのは僕の方だった。

「わん!わん!わぅんん~~」

「……よしよし」

 ご主人様はネイルを僕の首に突き立てて笑った。痛い。ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

畜生 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説