ホロスコープリーティング ~ミライへの指針~

DITinoue(上楽竜文)

ミライへの指針

 ホロスコープとは占星術における各個人を占うための天体の配置図。惑星、黄道十二宮、十二室、角度の4つの要素で構成される。一般的に占いの対象者の産まれた時の天体の配置を書き、占う。——某ウェブ辞典より




 ――ホロスコープ、か。

 オカルトを全く信じなかった中学校の少年、浜口洋祐はまぐちようすけは、あることをきっかけに占いに興味を持ち始めた。


 サッカーのレギュラーで出場することができなくなったこと。そして、何よりも学校の中で大きないじめがあった。西広にしひろというちっぽけなクラスメートを大勢でいじめ、最終的に不登校に追い詰めた。そこに加わっていたのが洋祐だった。

 それから、首謀者の緒形おがたや、みんなからいじめを俺のせいににしてきた。これまで、仲間だったメンバーが一気に敵になる。その悲しみは、よほどのことがないと分からない。


 それから、いじめの矛先が自分に向いた。俺を裏切った一味だけではない。西広のことを哀れに思った他の生徒までが、続々と洋祐のいじめに加わってきたのである。

 それがキッカケで、クラスメイトが多く所属するチームが嫌になり、別のクラブに移籍したのだが、いじめは先生のバレないところで日に日にエスカレートし、不登校への兆しが見え始めた。そのおかげで、サッカーも全くできなくなった。

 ――洋祐は、不登校となった。


 不登校となってからは、ポストに大量の手紙が届くようになってきた。多くは、緒形の一味によるものだ。他の生徒は不登校にまでなると、さすがにまずいと思って、引き下がっていったが、緒形たちはそんなことを分かる人間ではなかった。

 いじめの手紙ばかりが届き、苦しかった。

 ――今更、西広の感情が分かるなんて。我ながら、バカだ。

 そう思って、西広に謝罪と同盟提案の手紙を書いたが、返事は来なかった。おそらく、丸めて捨てられたのだろう。



 あれから、何日かが経つと、いつものいじめの手紙の中に、誠実な手紙が入っていた。


『こんにちは。クラスメイトの星奏ほしかなでだよ。いじめ、大変だね。先生に取り計らってもらって、どうにかしてもらえるようにしてるから、ゆっくり休んで、でも宿題もちゃんとして、いつか学校で再会できるのを楽しみにしています。ところで、私にオススメしたいものがあるの。今、いじめとかサッカーとかで色々大変でしょう。そういう時に占い、一度やってみて。私がオカルトマニアで占い大好きっ子だからなのかもしれないけど、占いって自分の運勢が分かって、自分という人間を試すだけじゃなくって、自分の人間としての中身が分かる。一度、やってみてね』


 星奏といえば、オカルトマニアの学級委員長だ。今まで、あまり話したことはなかったが、学級委員長だから心配して手紙を送ってくれたのだろう。

 正直、その気遣いにキュンとなったのが無くはないが、それはまた別の話。

(占いか)

 信じなかったものを信じるようになるまではかなりの時間を要する。占いなんぞ、ただのでたらめだろうと思っていたが、「苦しい時の神頼み」とはこういうことらしい。

 どうせ、やることは何もないのだ。ヒマつぶしだと思って――。


 まずは、占いサイトで見てみた。だが、おみくじのような内容ばかりで、占いなのかは少しわからなかった。

 だが、ためになることが書いてあることは事実。洋祐はそれを読んで、さっそく実行に移した。


『あなたの基本運は吉。自分の心にぜいたくをさせてあげましょう。お気に入りのこと、お気に入りのものに囲まれて暮らすとよいです。小さなことでもかまわないので、自分にとっての大切なものに気付くようにしましょう。また、ちょっとした心のゆとりが、普段気付かなかったことに目を開かせてくれます。しかし、他人に接するのはよくありません』


 ということだ。

 なるほど、お気に入りに囲まれるか。自分のお気に入りといえばサッカーだ。というわけで、自分のサッカーグッズに囲まれて生活することにした。模様替えをしてサッカーグッズを並べる。それで生活したが、確実に楽しくなった。

 そして、自分にとって大切なもの。それは・・・・・何だ。どうしても、分からなかった。しばらく熟考していたが全く分からない。まあ、それはいつか気づくだろう。



 それから、SNSを始めたのは引きこもりの生活が始まってから一か月が経った頃だ。

 ネットの人なら気軽に接することができると思い、Twitterを始めた。

 しばらく自己紹介のようなツイートをした時、来たコメントの中に応援のような誘いのようなものがあった。

「こんにちは。本当に辛いですよね。占いですか。私の得意分野です。よし、分かった!生年月日と生まれた場所を教えてください」

 マジか。というわけで、返信コメントに早速書いた。

「ありがとうございます!後日私のツイートでブログの更新のことが書かれてると思うので、その時見てみてください!」



 数日が経った。

 ある日、コメントをくれた人のツイートを見ると、ブログを更新しましたと言うお知らせが挙がっていた。

 タップして、ブログに入ると、確かにあった。

「ヨースケ君のホロスコープリーティング」

 記事のタイトルはそうなっていた。

『今回は、Twitterで知り合った悩める少年、ヨースケ君のためにホロスコープを見ます!!』

 その時に、ホロスコープのことを知った。


 そして、色々書いてあった。

「アセンダント。やぎ座。第一印象はやんちゃ。でも、冷静さも兼ね備えています」

「月 牡牛座3ハウス。やりたいことをとことんやる猪突猛進派。でも、きちんと回りを見ることもできます」

「水星 乙女座9ハウス。嘘は嫌い。正直者だが、少し冗談を言ってしまい、いじめにつながることがある。注意しましょう」

 そんな感じで、たくさんの自分の本性に関しての占いがしてあった。

 そして、最後に何やら名言があった。


「人はいくつもの顔を持っている。嘘つきなのに忠義心厚く、計算高いのに潔い。全部まとめて一つの人間なんじゃ・・・・・。漫画日本の歴史より」


 人はいくつもの顔を持っている。本当のことだ。冷静だったり、意外とうるさかったり、バカだと思っていたら頭よかった。みたいな、たくさんの顔を持っている。

 今回の占いは俺の様々な顔を見せてくれた気がした。人間は一つの顔を持つだけではない。様々な顔の複合体がこのやんちゃ顔なのだ。


 そして、ブログのコメント欄を見るとTwitterの知り合いがコメントしてた。

 このようなことが書いてあった。

『ツイッターでこの子と知り合いなんですけど、こんな悩みがあったんですね。でも、チェリーセージさんの占いなら、彼もこの悩みをぶっ飛ばしてくれるでしょう。未来への指針になるのでしょうね。彼の感想が楽しみです』

 こういう時には、いち早くTwitterにあげるべきだ。

 スマホを出してTwitterを起動し、リンクを貼り感想とお礼を140字びっしり書いた。

 Twitterのフォロワーさんはしっかりと返事をしてくれた。

「ネットって、神」

 往年のバカのような人がいるからこそ危険視されるが、普通なら居心地の良い二つ目の家になるのではないか――。



 それから、ホロスコープリーティングをしてくれた方は鑑定依頼が劇的に増えた。

 そして、俺はしばらく自分の姿を再発見し、自分の顔の好みのものを作って行った。

 それから、学校に出て行って、自分の第四の顔を使って、いじめっ子を更生したのだった。

 ――ミライへの指針。

 ――自分の顔。

 自分のたくさんの顔をやんちゃ顔でまとめ、走る洋祐。未来を示す針は、少しずつ動いていった。


(完)

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