第92話 売るほど塩があるんです
「リフ! リーフ!!」
「ピ! ピーピ!!」
とアンドリューとピエタちゃんが真剣そうな顔でシャーナに訴える。
どうやら夫婦の話を聞くに、この子は病気なのだという。
子供の顔を見ると確かに熱があるのか赤くなっているように見える。
「うーん、この子の病気は?」
「はい、流行病のようなものらしく、薬もなく…… もう何日も高熱が続いているのです」
と女性が言う。
「そうですか……ではちょっと失礼して」
と言ってシャーナは子供の額に手を当てる。
「うん、やっぱり高いね。ちょっと待っててくださいね」
と言ってマジックバッグから本を取り出す。
「この病気の症状…… これか、あった」
ペラペラとページをめくる。
その様子を見ていたアンドリューとピエタちゃんはハラハラしながら見守っていた。
「えっと、これかな? あ、これかも? うーん…… こっち? よし!」
そう言うとシャーナは本を閉じてアンドリューたちの方を向いてニコッとする。
「大丈夫ですよ、これで治せます」
アンドリューとピエタちゃんはホッとした顔をする。
シャーナはマジックバッグから取り出した瓶には白い液体が入っている。シャーナはそれをスプーンですくい取り、子供の口元に持っていく。すると、なんと今まで苦しんでいた子が急に元気になったのだ。
その光景に家族とデレクたち一行が驚く中、シャーナはすぐに次の行動に移る。
再びマジックバッグから今度は小鍋を出して、そこに水を入れる。そしてその中に薬草を入れた。
しばらく煮込むと緑色のドロッとしたスープが出来上がる。
それを器によそい、子供に差し出す。
子供は一瞬躊躇したが、シャーナが微笑むと恐る恐るといった感じで口に運んだ。
するとどうだろう、みるみると子供が健康な状態に戻っていったではないか。
シャーナは子供を抱きしめる両親に微笑んで、 そしてまた本を開く。
これは塩分不足ね
しっかしこんなに町は潤っているように見えるのに塩分が不足するって
領主、何やってんだ?
てかこのご夫婦も症状が出てるけど
「この辺でも売ってるんじゃないの? 塩。なんでこんなになるまでほおっておいたの?」
「実は私たちは少し前まで他国にいたものですから」
と夫が答える。
え?
じゃあどこの国から来たの?
「私たち一家は隣国の出身で、飢饉が起きた際こちらに逃げてきたんですが、なかなか仕事も見つからず、やっと見つけた仕事は荷を運ぶものだったんですよ。その仕事が終われば次は護衛の仕事で、それも終わって、ようやくこの町に来たんですが……」
と妻が話す。
「まさかそんなに酷いことになっているとは思いませんでした。本当にありがとうございます。あなたは命の恩人です」
と夫婦揃って頭を下げる。
「まあまあ、頭を上げてください。他の人も同じような状況ですよね? ちょっとここでお料理してもいいでしょうか?」
「え??」
「ああ、まあ塩が足りないならみんなでお塩を食べればいいじゃない、ってことですよ」
そう言ってシャーナはデレクを連れ再びキッチンに立った。
幸いこっちには売るほど塩があるんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます