第89話 レオシュの勝ち

「聖女の力は本当ですよ、最高議長」

「ほぉ、やはりか。それで、一体どのような方法で作物を育てているんだ?」

「お教えできません」

「なっ! なぜだ! 私はこの国の最高権力者だぞ!」

「あなたは私に取引を持ちかけてきた。だからこちらも取引に応じたまで。取引のお話でしたらいくらでも応じますが、あなたの質問に答える事が取引に資するとでもおっしゃいますか? それに、私の話を聞かないというのであれば、私にも考えがあります」

「な、なにぃ……!」

 ロートは怒りで肩を震わせながら言う。


「それに、私がその聖女とやらの力を使えるということに関して、何か証拠はあるんですか? あるなら見せてください」

 レオシュは冷静にそう言い放つ。


「ぐぬぅ……!」

 ロートは何も言えない。


「それに、今回フリンザ領から作物が入ってこなくなった理由はむしろあなたにあるのではないですか? ロート最高評議会議長」

「な、何を根拠にそのような事を……!」

「根拠はあります。ここ最近、共和国各地で作物の不作の報告が相次いでいる。それも、フリンザ領の周辺だけじゃなく、他の領でも同様の現象が起こっている。そのことから、何らかの原因により作物が育たなくなっていると考えるのが妥当でしょう。違うのであれば、その原因を証明していただきたい」

「そ、それは……」

「まさか、飢饉に責任を押し付ける気ではありませんよね? 共和国内の農作物が飢饉で少なくなっているのは事実です。しかしあるところにはまだありますよね? 私は別に農業の専門家というわけじゃないんですが、我がフリンザ領の農作物だけでこの問題を解決できると本気で思っているのですか? しかもそれをロート最高評議会議長の下に集め再配分する考えとは。ああ、もっと早く行動を起こすべきだったのでしょうか」

 レオシュの言葉にロートは言葉を失う。レオシュは続ける。

 フリンザ領で食料不足が発生していること、それにより他国との貿易で食料品を手に入れようとしていることなどを話す。

 そして、そのことについては共和国議会として対策を検討しなければならないことも話した。

 しかし、それに対して反論できない。なぜなら、実際にロート自身が金儲けのために農作物を大量にため込み価格の操作を行っているからである。

 だが、ここで引いてしまえば自らの悪事がバレてしまう。それを避けるためにロートは必死で反論を考え、諦めたようにレオシュに提案をする。


「わかった。君のいう通りだ。確かに君の言うとおり、共和国の食料は危機的状況に陥っている。しかし、それでも我々評議会はこの国の民を救う義務がある。だから、この国にまだ残っている農作物を流通させる必要がある」

「そうですね」

「だから、君にはその流通の指揮を取ってもらう」

「なるほど。わかりました。それに関してですが、ある程度の裁量を私に与える、という事でよろしいですか? 役職はどうしましょう? 肩書がなければ動きようもありませんので」

「う、うむ。その件は後ほど知らせよう、では、よろしく頼むよ」

 ロートがうなずくと、レオシュも満足げにうなずき返し


「では、私はこれで失礼いたします」

レオシュは立ち上がり一礼すると部屋を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る