第87話 ダルボレスト領主ロート

 飢饉初期の段階ではロートの思い描いた通りの結果を得ていた。しかし、あのフリンザのくそ田舎の農作物や肉類が大量に市場に流れ込んでロートの目論見は見事に打ち砕かれた。その状況は現在も続いておりロートが自ら輸出入を取り仕切っていた作物や卵までフリンザ領からの流入により値崩れを起こしていた。さらに最悪なことに、今回の件によってロートの作物や肉類の抱え込みがばれてしまった。これが原因で今後の取引に支障が出るばかりか、他の商人も寄り付かなくなってしまった。

 しかも追い討ちをかけるように、最近になって他国の貴族が頻繁に訪れてくるようになった。彼らは決まってこう言ってくる。


「フリンザの農作物と肉・卵など取引してほしい」

 現在ロートが優位性を保っているのは魚介類のみである。

 それもこれも全てはあの忌々しい田舎者のせいである。


 ――あいつのせいで私の輝かしい計画が台無しだ!!


 ロートは焦っていた。今回の評議会でフリンザの田舎者の扱いを間違えれば今後の商売に影響する。それに、この評議会さえ乗り切れば後はどうにでもなる。あと少しで私が最高権力者になる日が来るのだ。それまで耐えるんだ。

 私はこの世界を変えなければならない。そのためには金が必要だ。私は金を生み出す天才なのだ。金こそが私なのだ。

 私は絶対に負けない。そのためなら頭も下げる、土下座でもなんでもしてやる。


「ふん! フリンザの田舎者がやっと到着したか。この度の一件、どのようにしてくれよう!」


 そしてこの言葉である。ロートにとってレオシュは邪魔者であり、できれば蹴落としたい存在である。しかし、現在フリンザ領からの作物や肉類などの輸入が滞ってしまえば共和国各地で反乱すら起こりかねない状況である。ここは堪えて今後の共和国の発展のためという理屈をつけてフリンザ領からの荷をロートが一気に握ってしまえば大丈夫だ、ロートはどうせ田舎から出てきた領主など小物であり、最高評議会への呼び出しに答えたという事はこちらに協力する気もあるのだろうと考えている。

 こうなればここでの会議でこちらが主導権を握りフリンザ領からの荷を手に入れればよい事だ。そこから仕切り直し、共和国中の富を自分の物に出来ればそれでよい。そのために多少の融通は聞かせるつもりだ。

 今回のフリンザ領の輸出に関してはすでに部下を向かわせて調べさせている。なぜか畑の作物は実り、魔獣も飼いならされているという。何かの間違いだろうと思うがそのあたりの事もきっちり喋らせて、良い物があるならこちらに渡してもらわなければならんな。


 そう誓い、評議会議長室でレオシュの到着を待っているとドアがノックされる。

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