第86話 あんまり得意じゃあ

 私たちは現在、フリンザ領を出発してダルボレストへ向かって移動中だ。私たちの馬車の隣にはもう一台別の馬車があって、そこにはレオシュとシャーナ以外が乗っている。ちなみにこちらの馬車の護衛は二人だけで、馬車の御者をやってくれているセアラとラノベさんと合わせて四人で守ってくれている。この人たちは見た目と違ってかなり腕利きなのだ。

 私は馬車の中でピエタちゃんとお昼寝をしている。すると外からレオシュの声が聞こえてきた。


「シャーナ、なんて格好で寝てるんだい…… そろそろ起きなさい。外の景色を見てごらん、そろそろ到着するよ」

 私はゆっくりと目を開けて窓の外を見ると、そこには美しい光景が広がっていた。

 ダルボレストはボルトン河が海に流れ出す先にある水の街だ。河沿いにはいくつもの水車があり、街のあちこちで蒸気が上がっている。街の中心に行くにつれて建物は高層化していき、中心部はまるで空中都市のような作りになっている。

 街の至る所で人々が忙しく行き交っていて、商業が盛んで様々な国から人が来ている。街はとても活気がありこの街の豊かさがうかがい知ることができた。街にはガラス張りの建物もあり、建物の中にはすでに多くの人々が集まっていて、皆それぞれに談笑したり、本を読んだりしていた。

 そんな風景を眺めながらボーッとしているとひときわ大きな建物の前に到着した。


「さあ着いたよ、ここがダルボレストの領主がいる城、今回共和国最高評議会が開かれる会場だよ」

目の前にあった城は巨大で白を基調とした美しい城だった。その美しさに思わず息を飲むほどだった。

 私達は馬車から降りるとレオシュに連れられて城の門へと向かっていった。門の前には一人の兵士が立っており、レオシュを見つけるとその兵士は敬礼をして挨拶をした。


――――――


「ロート様、フリンザ領のレオシュが到着したようです」

黒い執事服を着た初老の男性がダルボレストの領主に声をかけるとロートは嫌悪感を露わにし答える。


「ふん! フリンザの田舎者がやっと到着したか。この度の一件、どのようにしてくれよう!」

ロートは若くして商才を発揮し一代で財を成し、共和国評議会最高議長にまで上り詰め、共和国ではダルボレストの奇跡と言わしめた人物である。彼はまだ駆け出しのころ何度も商売に失敗していた。

その度に借金を重ね、いつしか借金まみれになっていたのだ。しかし彼は持ち前の機転の良さと根性で数々の危機を乗り越え、ついにここまでやってきた。そして今彼は人生の終わりに向け有終の美を飾ろうとしていた矢先、飢饉が訪れた。彼はこれをととらえていた。飢饉をうまく使い、財産を増やし、力をつける。彼の商会をまた大きくでき、共和国内だけではなく、帝国や王国、さらには聖王国にまで影響力を持つことができる。彼は思っていた。金こそすべて、金を稼げば何でもできる、金こそが正義だと、そう思い今まで生きてきた。

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