第68話 聖女なんかじゃありません

 さすがはラノベさん!

 漢ですね!

 私はラノベさんに向かってサムズアップをした。


 私にはわかる。彼がどれだけ辛い思いをしてきたかを。

 だからこそ、今の彼を祝福したい。


 がんばれ!

 負けるな!

 頑張れ!


 そんな気持ちを込めて、私は親指を立てたのだ。こうして、私たちは無事に村に入ることを許されたのだった。


 ラノベさんのおかげだ!

 ありがとう!

 あなたは最高です!!



 ――――――



 それから数日が経った。

 私たちは村に滞在することになったのだが、ラノベさんがなかなか戻ってこない。

 どうしたのでしょう?

 まさかね……


 嫌なことを思い出してしまった。あのままウサギの着ぐるみで過ごすことになったんだよね、ラノベさん…

 大丈夫だよね? きっとどこかで生きてるはずだ! 信じてるぞ!


 それよりも!

 母上だ!

 あんた何やってんだ?


 飢饉で食べるものがないというのに、毎日のように宴会を開いてる。


 いや、別にいいんだけどね?

 宴は楽しいものだし。


 ただ、限度があるだろう??

 もうちょっと考えてくれないかなぁ……


 村の人たちも楽しげに騒いでいる。

 昔からこの村はそうだ…


「母上… そろそろラノベさんの着ぐるみを外してもらえないだろうか? 気になって仕方ないんだけど…」


「あら、どうして?」


 母は不思議そうな顔をしている。


 え?

 なんで??

 普通は逆じゃないの??

 なんで疑問形??

 こっちが聞きたいんですけどぉ??


 私が戸惑っていると、父が口を開いた。

「おい……

 さすがにもういいのではないか? あの格好では動きにくいし」


 おお!

 父上!

 よく言ってくれた!!

 その通りだぞ!

 さぁ、早く着替えてきなさい!!


 しかし、母は首を横に振った。

「ダメよ。まだその時ではないわ。もう少し待ってちょうだい」

 は? 何を言っているんでしょうか? 意味がわかりません。

 そうこうしているうちに、宴が始まってしまった。

 私と父は母に付き合って、酒を飲む羽目になる。

 ああ~……

 どうしてこんなことにぃ……

 そして、宴が終わった。

 母は満足そうにしている。

 一方、私はぐったりしていた。

 くっ! まさか、こんなことになるとは! ラノベさんが帰ってきたら、すぐにでも逃げよう! 私は心に誓ったのであった。

「母上。 この村の飢饉の状況はどうなっているのです?」



「うーん、あまり良くないみたいねぇ。このままだと冬を越えるのは難しいかもしれないわ」

 やはりですか……

 まぁ、予想通りの回答ですよ。

 しかし、本当に困ったな。

 なんで毎日宴ってるのよ…


「でもシャーナちゃんが何とかしてくれるんでしょう?」


「え? いや、それは……」


 私が困惑していると、母が言った。


「だって、村長さんから聞いたもの。シャーナちゃんは聖女様なんでしょう? だから、きっとなんとかなると思って!」


 はい?

 どういうことなの??


「あの、すみません。私が聖女とか…… 一体誰に言われたのでしょう?」


 すると、母が言った。


「え? 違うの? 村長さんが言っていたわよ? シャーナは聖女様だって。それで、飢饉を救ってくれるって。」


 いやまあそうなんだけどね?

 でも聖女なんかじゃありません!

 っていうか、そんな話になってたのか!?

 これ、どうしたらいいんだ?


 私が悩んでいると、母が口を開いた。

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