第62話 お仕えしたい

「あの時の人だ! どうしてここに?」


 男性は近づいてくると、丁寧に頭を下げた。


「この度は助けていただきありがとうございます。私は、商人のラノベといいます」


「いえ、当然のことをしただけですから!」


 セアラがそう答える。


「それでも、命を助けてもらったことは事実です。そこで、お礼として商品を持ってきたのです。受け取ってください」


「そんな悪いですよ! お金なら、別に必要ないですよ!」


「いえ、それは私が困りますので、どうかもらってください」


「うぅ…… わかりました。じゃあ、ありがたく受け取りますね」


 セアラは渋々といった感じで受け取った。


「はい。どうぞ、受け取らせて頂きます」


 そして、アンドリューも受け取る。みんなで分けてね。


「それで、これからどこに行かれるんですか? もし、よろしければ私も同行させていただけないでしょうか?」


 突然の提案に驚く。


 ど、どういうことだろう?

 なんで、こんな提案をするんだろう……


 それにしても、綺麗な顔をしてるな〜

 ってそうじゃないよ!


 えっ!?

 本当にどうしよう……

 一緒に行くのは、ちょっと怖いかも……

 でも断る理由もないし、断れる雰囲気でもないんだよねぇ……


 だって、相手からのお願いだし、ここで断ったら失礼になるんじゃないかな。

 それに、私のせいで迷惑をかけるわけにもいかないしね。


 仕方がないけど、連れて行くしかないか……

 でもやっぱり不安だ〜

 なんかあったら嫌だけど、なんとかなるかなぁ……


 とりあえず、理由を聞いてみるしか無いよね。

 私は意を決して、声をかけた。

 大丈夫だよ!

 頑張れ私!

 勇気を出して言うのだ!

 いざ出陣!!


 気合いを入れて、話しかける。


 まずは自己紹介からだ!

 よく知らない相手にいきなり頼み事はできないもんね!

 えっと名前はなんていうんだろ……


 うわー!

 心臓がバクバクするよ〜

 落ち着け私、落ち着いて深呼吸するんだ。

 スーハー

 スーハー

 スーハ―――

 落ち着いた〜


 よっしゃ!

 いくぜ!

 覚悟を決めて、問いかけた。

 さあ、理由を聞かせてもらおうじゃないか!


 私は、ラノベさんに質問をした。

 ちなみに、アンドリューは肩の上にいる。

 ラノベさんは、こちらをじっと見つめてくる。

 めっちゃ見てるやん。

 やばい、顔に穴が空きそうだよ。


 いやーーーー!!

 見すぎーーーー!!

 恥ずかしいから、もう勘弁してください!

 早く答えてくれないと、変に思われちゃうよ!

 あーーーー!

 ダメだ!

 耐えられない!

 無理!

 限界!

 これ以上は、恥ずかしくて死んでしまう!

 お願いだから、何か喋ってくれーーーー!


 と、心の中で叫んでいたその時。

 ラノベさんの口が開いた。


 やっと話してくれたーー!

 ほっとしたのも束の間……


 そこから出てきた言葉は衝撃的なものだった。


「あなた様のお力になりたいのです!」


 ……ん?


 今なんて言った?

 聞き間違いかな……


 もう一度聞こう。


「あの〜すいません、よく聞こえなかったのですが……」


「あなた様にお仕えしたいと言っているのです」


 ……はい?

 何言ってるんだこの人?


 言っている意味がよくわからない。

 私は助けを求めるように、セアラを見る。すると、彼女は困惑した表情を浮かべていた。そりゃあ、そうなるよね。私も同じ気持ちだもの。

 すると、アンドリューが飛び立ちラノベさんに向かって威嚇を始めた。


 ちょ、ちょっとアンドリュー!

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