第14話 油断も隙もあったもんじゃねえ

「スライスはこんなもんでいいのかな?」


 知らん

 私にわかるわけがない


 そう答えるとデレクさんは野菜全集のオニオーの項を調べろとか言いだした。


 ふざけんじゃないわよ!


 と思ったが、何度も言うけど私はできる女。


 そしてデレクさんがおいしいものを作ってくれるというならそれは利用する以外選択肢はない!


 そう思い直し笑顔になる。


「はいはーい。オニオーの項にはいろんなスライスの仕方が載ってるねえ。ああ、なるほど。オニオーに限ったことじゃないのか。薄くスライス、角切り、輪切り、串切り、みじん切り」


「待って待って! そんなにいっぺんに言われても覚えられないよ」


「今までだってお料理作ってきたんでしょ? なんでわかんないの?」


「あのね、僕たちが作ってきたのは伝統のある昔からの料理なの。切り方もサイズも決まってて味付けももちろん決まってるの!」


「あー、あのまずい料理ね」


 そう、領主館で出される、いやこの国で出されるすべての料理はそうなのだ。


 食べる料理はすべて同じ味。


 飢饉の前から塩と油と少しの甘いもの。

 これがすべてだ。


 なので私は干し果物が大好きなのだ。

 ここのところアンドリューに食べられ続けているお菓子も小麦に砂糖が練り込んであるものだが砂糖なんて高級な物そうそう手に入らない、飢饉とあってはなおさらだ。


「まずいって、ひどいな。一生懸命作ってるんだよ」


「うん、だから今までは文句も言わずに食べてたでしょう? でもみんなおいしくないって思ってたよね?」


「正直、まあそうなんだけどね。これが当たり前だし、飢饉になってますますね」


「うん、そうだよね。ま、このパンプキを食べてみようじゃないの。話はそれからだ!」


 そんな話をしていると鍋がぐつぐつと音を立てて煮え始める。


「パンプキはもうしばらくこのままで。フライパンにバター、って、ないよね?」


「うん、バターなんてもうかれこれ1年以上見てないね」


「そっか。じゃあ仕方ない。フライパンに油を薄く引いて」


「薄く??」


 あああああ!!


 ばっかじゃないの!

 それは薄くないでしょ!


「ほんの少しでいいのよ!」


「いや、でも、たっぷり注がないと焦げ付いちゃうよ?」


「あのさ、なんでそんな火を強くしてんのよ? 焦げるに決まってるわそんなもん!」


「え?」


 え? じゃねえよ!

 油を薄く引くんだからそれに見合った火加減にすればいいでしょうよ!


 竈の中で火加減の調整ができるものは?


 と聞くと4つある竈のうち1つだけ弱火に対応している物があったのでそこを使用する。


 おっとあぶねえ!


 パンプキの鍋も強火でガンガンやられちゃってる!


 焦げ付くところだった!!


 火からはずしてそのまま余熱で火を通すことに。


 本当に油断も隙もあったもんじゃねえぜ。


 なんかだんだんキャラ変わってきた気がする。


 なんでべらんめえで喋ってんだろう、私。


 こんなはずではなかった、こんなはずでは…

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