第11話 《《膳》》は急げ!

 それからさらに数日。私はレオシュ様の執務室に呼ばれた。


 やはりか! やはり私から読書の時間を奪うつもりか!!


 徹底抗戦だな、これは。と思いながら執務室の扉をノックする。


「どうぞ。シャーナがノックして部屋に入るなどなんと珍しい。異常気象がひどくなるのでは?」


「そんな冗談は結構ですから! 要件を!! おっしゃってください!!」


「まあそう慌てるな。ほら、お茶の用意を」


 いつもの調子だ。焦るな…、シャーナのことはわかっている。

 次の一手で…


「そういうのはいいですから! 要件を言ってもらわないと!」


 負けるもんですか! お茶なんか飲んだでたら時間がいくらあっても足りないわ!


「まあまあ、お菓子も準備させたから」


「そういうことは早く言ってもらわないと!!」


 チョロい。



 レオシュ様はお菓子を出すとすぐに本題に入り、衝撃的なことを言った。


「と、いうことでシャーナ。とりあえず君に料理を作ってもらいたいんだ」


 え? 意味がわからないんだけど。


「どうした? そんなに驚いた顔をして」


「いえ、急だったので少し戸惑ってしまいました。どういうことでしょうか?」


「うん、隣領の件はひとまず置いておく、これは伝えたね。そして、ここからは内密に願いたいんだけど」


 あ! アンドリュー! お菓子に!!


「アンドリュー!! お菓子はダメだっていてるでしょ!!」


「リフー。 リフ!!」


「いやダメだって! それ私のだから!!」


「あのね、ちょっと話を聞いてくれないかな…」


「あ! アンドリュー!! ああああああああ!! 私のクッキーがああああああ!!」


「もういいかな。そろそろ私の話を聞いてもらわないと」


 まずい、さすがにレオシュ様もお怒りだ。


 お菓子は諦めるしかないのか、クフゥ!!

 しかし私はできる女だ。

 気を取り直して。


「はい。で? 何のお話でしたっけ?」


「はぁ、料理だよ。料理! じゃあよろしく頼んだよ。厨にはこちらから伝えてあるから、いつでも構わないからね!」


 あ、だめだ、これ、拒否できないやつだ


「はい。承りました」


 しかたない、お菓子は全部アンドリューに食べられちゃうし、料理しろとか言われちゃうし、ふんだりけったりだな。


 くそおおおおおおお!


 こうなったらとっとと料理作って終わらせちゃって、待て、待て待て!!


 これはチャンスなのではないだろうか。

 

 私が作るということは私が食べるに、何も気にせず試食と称して…


 グフフ、グフフフフフ


「どうしたんだい、シャーナ。魔獣が獲物を前にしたような顔をして」


 我に返る。なんて失礼なことを!!


「いえ、なんでもありません、レオシュ様。確認ですが、材料等は自由に使っても?」


「ああ、構わないよ。ただし、基本的にはアンドリューが育てた野菜を中心に、特に食べ方がわからない野菜を中心に料理をお願いするね」


「あー、なるほど。そういうことですか。わかりました! では早速行ってまいります!!」


 は急げ! そう言って勢いよく執務室を後にした。


 もちろん、そんな言葉はありません。

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