第8話 台無しである

「「なんで??」」


 私とセアラは声を上げる。

 なんとそこにはあるはずのない野菜が実った青々とした畑が広がっていた。


 え?

 どうなってんのこれ?


 私は混乱しながら隣にいるセアラを見る。セアラも驚きで固まっているようだ。


 え? ちょっと待って。

 どういうこと?

 なんでこんなところに野菜が??

 え?

 え?

 え?

 え?


 私とセアラは同時に叫ぶ。


 いったいどうしてこうなった!!??


 目の前にあるのは紛れもなくトマトだ。


 ということは、つまり……


 アンドリューの仕業ということなのか?


 私はアンドリューに尋ねる。


「ねえ、アンドリュー。これはあなたがやったことなの?」


 アンドリューは首を傾げる。

 アンドリューじゃないの?


 じゃあ誰がやったっていうんだよ。


 まさか、ただの不思議現象だとでも?


 いやいやなんだそれ。

 うーむ、わからん。


 わからんが!

 とりあえず食べよう!!


「アンドリュー、降りてきなさい。食べるわよ」


「リ! リフ!! リーフ!!!」


 アンドリューは私の言葉を遮り興奮気味に話す。


 わかったから!

 とにかく落ち着いて!!


 というわけで私たちは収穫したばかりの野菜を食べることにした。


「うん、美味しい!」


「美味しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 思わず叫んでしまうほどだ。セアラは涙を流している。

 いやしかし、ほんとにおいしい。

 このみずみずしさ。この歯ごたえ。この味。

 素晴らしい。


「リフ! リフ!!」


 アンドリューは大喜びで飛び回っている。


「アンドリュー!!」


 私がそう呼ぶとアンドリューは私を見て言う。


「リフ、リフ!!」


 そしてまた自分の胸を叩きながら言う。


「リフ!!」


 リフ?

 リフ……


 ああ、そっか。


「ありがとう、ね」


 私はそう言ってアンドリューの頭を撫でる。

 私のためにこれをやってくれたのね。


「リ! リーフ!!」


 アンドリューは嬉しそうに飛び回る。

 私はアンドリューに何度もお礼を言う。


「ありがとう、本当にすごい!!」


「リフ!! リーフ!!」


 アンドリューは相変わらず元気いっぱいだ。


 それにしても


「ねえセアラ」


「はい、なんでしょう」


「この畑、しばらくこのまま放置しておいてもいい?」


「もちろんです。領主さまに報告して状況を確認してもらうのですね」


「ええ。でも報告はセアラに任せるわ。私はここでもう少しここで調べたい」


 セアラはシャーナと親しくはないが、噂では非常に興味の幅が偏っている人で本と歴史とおやつにしか興味がない人だと思っていた。


 そのシャーナが、今までに見たこともないような真面目な顔で言っている。この事象に関してこれまでこの領の蔵書を編纂し、歴史を研究してきた者の風格すら感じる。自分も気をしっかり保たなければ。そう思いながらシャーナに答える。


「承知しました。では、急ぎ領主さまに報告してまいります!」


「あ! セアラ! 戻る時にお菓子忘れないで!!」


 台無しである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る