第3話 誰だお前??

 シャーナは激おこぷんぷんである。


(だいたいレオシュ様はいつもそうだわ! 勝手に呼び出しておいて、自分の都合の良いことばかり言うんだもの! まったく!)


 と、ぶつくさ文句を言いながら歩いている。

 しかし彼女は知らない。


 彼女がこれからどのような事態になるかを


 そして


 この国でどれほどの騒動が起きるのかを


 彼女はまだ何も知らなかった。



 あのクソ領主め!

 私の貴重な読書タイムを潰すなんて許せない!

 絶対あの本を読み終わってやるんだから!!


 そんなことを思いながら領主館の図書室に入る。


 そこには大量の蔵書があり、貴重な書物が多く存在する。

 私はこの国の歴史書や伝承の類を蒐集してまとめている。

 もちろん他国のものも……


 今編纂を行っているのはずいぶん古い本だ。


『ルンデの書』とそれに関係する書物。


 これこそ私が求めていたものだ。この本はこの世界の歴史について書かれたものだ。


 今までいろいろな人が書こうとしたが誰も書くことはできなかった。


 なぜならば、この本は【複製】することができないのだ。


 おそらくこれはこの世界の魔法体系とはまったく違う原理で書かれているためだろうと言われている。


 それ故に、この世界でこれを読める人はいなくなってしまったのだ。


 私はここに来てからというもの毎日のように通いつめ、写本をしている。


 もうほとんど完成していると言ってもいい。あと少しで書き終わるところまで来ているのだ。意味は全く分からないけれど。


 しかしここで大きな問題が起きた。

 そう、あのクソ領主のせいで。

 いけないいけない、今は本に集中しなければ。


 息を吐き一息つくと、ふと上を見ると一冊の本が目にとまる。


 その本は古びていて、他の本よりも大きい。


 表紙には見たことのない文字で何か書いてある。


 どう見てもこの時代の本ではなく、最近書かれたものではないと思う。

 

 そっと手に取ってみる。

 なぜかその本を開かずにはいられなかった。


 すると急に強い光に包まれた。


 (な、なに!? 一体何が起こっているの!?)

 

 強い光が収まったので目を開けるとそこはどこかの森の中のようだった。


 辺りを見回すが人の気配はない。

 

 どうなっているんだろう?


 とりあえずここから移動したほうが良さそうだと思い歩き出す。しばらく歩くと遠くから声が聞こえてきた。


 急いでそちらに向かう。


 そこにあったのは大きな木だった。


 ああ、これが感動っていうやつか


 美しいな


 そう思っていると


 そこに一人の女性が立っていた。


 きれいな人

 

 そう思った。

 

 彼女はこちらを見て微笑んでいる。まるで聖母のような笑顔だ。

 そこで思い出した。


(ここはどこだっけ? 私は何をしていたんだった?)


 頭がぼんやりとしている。


 確か本を読んでいたはずだけど。


 だめだ、よくわからない。


 彼女はこちらに向かって歩いてくる。一歩ずつ近づいてきて目の前に立つ。


 見上げるととても大きく感じる。


 そして私を抱き締める。


 温かい


 なんだかとても安心する。


 お願いね……


 そう聞こえた気がする。


 綺麗


 そう思うと同時に切なさがこみ上げてくる。


 胸をギュッと掴まれるような感覚を覚える。


 どうしてだろう、涙が止まらない。


 そしてそのまま意識を失った。


 ――――――


 目を覚ますとベッドの上だった。


 すっかり夜になっていた。


 そして



 誰だお前??


 私の周りに緑色の光が浮かんでいる。

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