第2話 希望と呼べるのか?
聖国歴1505年 共和国歴730年
フリンザ領は未曽有の飢饉に見舞われていた。
領主館では
「このままではこの領は全滅です」
執事のクレートは静かに領主に話しかける。
「何とかならんのか。やれることはやったつもりだが」
若き領主のレオシュ・フリンザが苦しそうに答える。
「レオシュ様。頃合いかと。これ以上はもう……」
執事のクレートは俯きながら首を振る。
「クレート、教えてくれ。私はどうすればよかったのだ? 何を間違えた?」
「レオシュ様。あなたは間違ったことなどしておりません。すべては異常気象による飢饉が原因でございます。本当に、本当に悔しゅうございます」
「そうか……」
「はい」
これ以上この領を維持していくことは難しい。
残念だが他領に援助を求める事もこれ以上は望めないだろう。共和国内で影響力のあるあの領に身売りする他ない。
あの領に頼るしかないのか
「そういえば、あの変わり者はどうしている?」
「相変わらずでございます。あの者は飢饉など関係ないのでございましょう」
「はぁ、しかし預かったものの、このままでは食べることも保証できん。早々にケリをつけなければな。彼女を呼んできてくれるか? クレート」
「承知いたしました」
レオシュは一人になった部屋でこれまでを振り返る。
あの娘とも今日で終わりだ。
これまで2年間、よく耐えたものだ、我ながら感心する。
そんなことを考えていると、ノックもなく元気よく扉が開きシャーナが執務室にドカドカと入ってくる。
「あーもう! 私は忙しいんですけど!! これからやっと蔵書の編纂に入れるところだったんですよ! さあ、早く! 用件をおっしゃってください。早くしないと本が読めない病で死んでしまいます、レオシュ様」
一気にまくし立ててくる。
そう、彼女だ。
「はぁ、シャーナ。その本が読めない病のことはよくわからないんだけれど、とりあえず私の話を聞いてくれないかな?」
どうにか持ちこたえて彼女に伝える。
秘蔵の干し果物を応接セットの机の上に並べながら着席するように促すと、彼女は干し果物をチラチラ見ながらテーブルに近づく。
「ええ、まあ。そりゃあね、私だってね」
「わかったから、まず座ってくれ」
「はい、わかりました」
と言いながらソファーに腰かける。彼女の目の前には干し果物が置いてあるのだが。
我慢できないといった様子だ。
すぐに本題に入ることにする。
「実はだね、君に頼みたいことがあるんだよ」
「はい、なんでしょう?」
目線を干し果物から外さず言う。
「……と、いうことで君の力を借りたいということだ」
(ちょっと前半は干し果物のことを考えてたので聞いてなかった、テヘヘ。まあ力を借りたいとかかわいいこと言ってるしな。気分がいいね)
「ほほう! それはそれは! 私、今とても気分が良いのです! 何でもお申し付けください!」
と、満面の笑みを浮かべる。
「では早速だけど、君にはこれからこの領地を出てもらい、隣の領に行ってもらうことになる。そこの領の領主様に会ってほしいんだ」
「へぇ? ん? はいぃ~? ちょっと待ってください! いきなり何ですか!? どうして私がそんなことをしなければならないんですか! 嫌ですよ!!」
そう言って立ち上がって抗議してくる。そしてそのままレオシュを睨みつける。
「頼むから落ち着いてくれ。これは命令なんだ。断れないんだよ。それに私だって不本意なんだ。こんなことは言いたくないが、飢饉が広がりこれ以上領を継続するのが難しいんだよ。だから。お願いだよ、わかっておくれ」
「うぅ…… ひどい、ひどすぎる…… 私はただ本が読みたいだけなのに…… ああ、もういいです。わかりましたよ。行きますよ! ただし! その前に! 今、編纂している本だけは譲れませんからね!」
そう言い放って部屋から出ていった。
まあ仕方ないか、行ってくれると言わせただけでも上等だな。
そう思わずにいられないレオシュであった。
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