ほたるぶくろの村で 🥀

上月くるを

ほたるぶくろの村で 🥀




 山の奥の、うんと奥の、けもの道に沿った渓流から斜面を少しだけ上ったところに薄紅色の蛍袋の村があります、釣鐘草、風鈴草、雨降り花とも呼ばれる、あの……。


 うつむいてばかりで空を仰いだことがない提灯花には、蛍が一匹ずつ棲んでいて、あたりがほの暗くなると、日暮れの早い谷底に、ぽっと小さな灯りをともすのです。


 その幻想的な情景を拙い文章でどう表現したらよいでしょうか。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

 一日たっぷり走りまわり、そろそろ眠くなって来ている山の動物の子どもたちも、



 ――やあ、なんてきれいなんだろう!

   蛍さんちにあそびに行っていい?

   ね、いいでしょってばぁ。🐻🦊


 

 そんなことを言っては「夜に出歩くのはわるい子よ」かあさんに叱られています。

 ちぇっ、つまんないの……口を尖らせた子どもらは、しぶしぶ寝床に入るのです。




      🎇




 そんなある夜のこと、渓流のあたりは、ときならぬ笛太鼓の音色に包まれました。

 それぞれの提灯の家から出て来た蛍たちが手拍子をとったり踊ったりしています。


 ド~ンと威勢よく花火もあがり、年に一度のホタルビレッジ祭りを祝っています。

 「自前の尻の花火があるじゃろうが」頑固な長老を説得してのことですが(笑)。


 今宵ばかりは山の動物の子どもたちも夜更かしを許されるので、もう大はしゃぎ。

 露店の綿あめを買ってもらう子、リンゴ飴を舐める子、射的に興じる子も……。


 宇宙……すなわち生命がまわっていることを知っている大人も知らない子どもも、短い夏を思いきり楽しみ、それぞれの胸によろこびの記憶を刻んでおくのです。🖊️


 


      🎭



 

 ついこの春先、「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」と言って正体の知れないものに怯えていた兄弟のカニも、とうさんカニと蛍袋の村祭りを見物しています。🦀🦀🦀



 ――兄のカニ:この世ってすてきだなあ、こうして生きていることが楽しいよ。

   弟のカニ:恐ろしいこともあるけど、いいことだっていっぱいあるんだね。

   父のカニ:そうさ、だからね、なるべくいいものを見るようにするんだよ。


   兄のカニ:ぼくたち、こうして、せっかくカニに生まれて来たんだものね。

   弟のカニ:とうさんやにいさんと一緒だから、ぼく、なんにも怖くないよ。

   父のカニ:お空でかあさんも、おまえたちの幸せを見守ってくれているよ。



 とそのとき、とうさんの話に応えるかのように、とびきり大粒の流れ星がひとつ、西の空から東の空へすうっと飛んだことに、川底のカニの父子は気づきません。💦



      🍐



 やがて季節がめぐり、あれほどピカピカお尻をまたたかせていた蛍たちはいっせいにどこかへ消えてしまい、さらにつぎの季節には、蛍袋村が枯葉色に閉ざされます。


 そのとき、すっかり水が冷たくなった渓流の上の方を、熟してなんとも言えぬいい匂いを放つ山梨の実がぷかぷかと流れていくことを、カニの父子はまだ知りません。




                     *参考文献:宮沢賢治作『やまなし』


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ほたるぶくろの村で 🥀 上月くるを @kurutan

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