Coffin
無形
第1話「砂塵と硝煙」
これは私達の世界とは違う何処かの話────
白昼の砂漠にて取引が行われていた。
「これが例の兵器だ、これを使えば街のひとつくらい簡単に廃墟にできる」
「ふむ、数に間違いはなさそうだな…では取引成立だな」
テロリスト達の水素式爆弾の闇取引、この世界ではよく見る光景である。そして昨今、これを使ったテロ行為が頻発している。この取引をしている彼らばかりでは無く、点在する多くのテロ組織が行っているのである。
「今回も上手くいくだろう、結局市街治安部隊のやつらは能がないからな、鹵獲したMA(マルチアーマー)2機でどうとでもなってしまう」
その時だった、一人のテロリストから取引現場に通信が入る
「南西から反応が迫ってきてる!!この反応はMAじゃないぞ!」
「何!?じゃあ、まさか──」
その先の言葉は耳に入ってきた音にかき消された。MAでは出せない高出力のブースターの駆動音、そして巨体が風を切り迫り来る轟音。
迫ってきているのはMAではない人型の機械だった。人型というにはいささか堅牢すぎるようなものではあるが、それでも人型は人型である。灰色と白の迷彩色が施されたその鋼の巨人はテロリストの取引現場に向かって真っ直ぐに銃器を構える。形としてはアサルトライフルのそれだが、その大きさは人間のそれとは比べ物にならない。
「チッ!!MAを出せ!逃げる時間ぐらい稼げるだろ!」
その言葉を皮切りに、その機体の目の前にMAが躍り出てくる。このまま機体を停止させなければ衝突するという距離、巨人は脚部のブレーキを始動させ強烈な制動をかけながら減速していく。砂埃が上がりMAは視界が砂におおわれた。
「クソッ!見えねぇ!!どこにいやが──」
次の瞬間にMAはその装甲板にいくつも穴を開け崩れ落ちた。
「1機撃破、他には?」
声質の割には落ち着いた青年の声に通信機越しに女性の声が応える
「残り1機よ、思ったよりも小規模なヤツらね、アンタにはちょっと物足りなかったかもね?」
「了解、弾代が抑えられるからいいさ、目的を遂行して…今日は早く帰るよ」
そして巨人は残党の乗る装甲車に進路を定めると、咆哮のようなブースターの轟音とギアの駆動音とともに急接近を開始した。
「クソッ!なんで「コープス」が来てやがる!!コフィンにかなうわけがねぇ!!」
「もう一機のMAはどうした!?この装甲車ごと市街に突っ込んじまえばいい!1秒でも長く足止めしろ!!」
巨人────コフィンと呼ばれたそれが装甲車との距離を確実に詰めているその時、側方からの強烈な衝撃、捨て身覚悟でタックルを仕掛けてきたMAによってバランスを崩して転倒した。
「ぐっ…!クソッ!」
青年は悪態をつきながら姿勢を立て直し、自らを転倒させたMAに正面から対峙する。後付けと思われる粗雑な施行の装甲板を各部に装着し、先程破壊したMAよりは幾らか頑丈に見える。
「コフィンでも潰しちまえば鉄クズだァ!!」
MAは分厚い鉄板に加工を施したと思われる鈍器を手にし突撃してきた。
「…あれに潰されたらコフィンでもひとたまりもないな…」
そうは言いつつも青年は回避する素振りを見せない。
「オラァアァ!!!」
コフィンに向かって鉄板が振り下ろされる、そして─────────そのコフィンはその鉄板を凄まじい金属音と共に片手で受け止めた。
「…けどな、そもそも量産型のMAとコフィンじゃ元のパワーが違いすぎる」
「なッ…そんなッ」
コフィンは片手で持ち上げた鉄板をそのままMAの手から取り上げ、持ち替えもせず叩きつけた。どれだけ銃弾に対しての装甲板で固めていても、これでは形も残らなかった。
「2機目も撃破した、目標を追撃する。」
「あら、それなら大丈夫よ」
無線越しの女性からの意外な返答に青年は怪訝そうに聞き返す。
「大丈夫?なんでだ?」
「まぁ私より彼に聞いて、通信繋ぐわよ」
「彼?」
そして繋がれた通信から軽薄そうな声が返ってきた
「よォレノス、目標の装甲車は俺がちゃ〜んと破壊しといたぜ。」
「お前…なんでここに?」
「いやなに、近くで別の仕事をしててさ、その帰りに何やら市街へ突っ込んでく装甲車を見かけたもんだから、ありゃテロリストだなって踏んで破壊したのさ、読みが合ってて良かったぜ」
「そうか、ありがとう…いや待て、ってこと報酬は…」
レノスと呼ばれた青年は少し安堵したような声から怪訝そうな声に戻った、その様子に女性が応える。
「依頼主が装甲車の破壊報酬は彼に、MAの破壊報酬はあなたに支払われるようにはからってくれるらしいわ、山分けってところね」
「…そうか、それなら良かった。帰還する」
青年はコフィンを非戦闘モードに切り替え、「家」のある方へと走らせていった───。
企業が大きな力を持ち利権を争い、それに伴う紛争が巻き起こる世界。これはそんな世界で生きる「コープス」と呼ばれる者達の物語。
第1話「砂塵と硝煙」完
Coffin 無形 @mukei_amatutwo
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