第23話 狭間に立つ人々
カマリとミエスが城に戻ると、支度を終え、馬小屋へ向かおうとしているラーハがエントランスにいた。
彼は長い剣を鞘にしまうと、外から帰ってきた侍女たちを睨んだ。
「おや、なぜお前たちがここにいる?」
鋭い眼光にミエスがどう対応するか困ると、すぐにカマリが一歩前に出た。
「お客様がいらっしゃったかと思い、お迎えしようと」
しかし、その答えはハズレだった。ラーハの眉が動き、軍人にも引けを取らない足取りで二人と距離を詰めた。
「あのような平民が客なわけがなかろう! 考えてわからないのか! すぐに持ち場に戻れ!」
「「はい! 失礼しました!」」
二人は同時に頭を下げ、エントランスを出ようとする。カマリは一先ずクッカの部屋がる方へ行こうとしたが、ミエスは予定通り議会堂へ行こうとした。その様子がラーハの目に留まる。
「おい。どこへ行こうとしている。お前の職場はそちらではないだろう」
「そ、そうでした!」
ラーハに侍女たちの意図がバレてはいけない。カマリは急げという意味を込めてミエスに手招きをする。
ミエスが踵を返すと、ちょうど議会堂へ続く扉が開かれる。現れたのは例のミエスの彼・ヴィルだった。
「捜索隊の準備が整いました。いつでも出発できます」
中央議会の議長も務めるヴィルはラーハの右腕的存在であった。
恭しく礼をする彼をラーハは鼻で笑う。
「その格好はなんだ。貴様もついて来い」
「ええ、もちろんです。すぐ追いつくので先に行っておいてください。一刻を争うでしょう」
「ふん。好きにしろ」
普段ならば、怒号を飛ばしながら身支度をさせるだろう。しかし彼を信頼しているからこそ許されている単独行動なのだ。
ラーハがマントを翻し立ち去ろうとすると、次はマーが姿を表した。
「待ちなされ」
杖をつきながら、ゆっくりと一歩づつ歩いてくるマー。厚手のローブに厚底のブーツまで履いている。城の中で過ごすにしてはやや大袈裟な格好だった。
「このババアが。何しに来た?」
「何しに? 見てわかるじゃろ。親としての最後の務めをしに行くんじゃ」
つまり捜索隊に追いていくということだろう。しかしマーの腰を心配した議長の彼は、
「そのお体で馬は……」
と、言いかけるが、マーはいつものように「ひっひっひ」と笑ってみせた。
「馬など要らぬ。今までこの足で歩いてきたんじゃ。これからも変わらん。死んだら置いていけばいい」
「貴様の戯言に付き合っている暇はない。勝手にしろ」
ラーハはそう吐き捨てると、急ぎ足で馬小屋へと向かっていく。
それを見送ると、カマリらはすぐにマーの元へ駆け寄った。
「大婆様、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ。もう百を超えたババアじゃぞ。そこらの老いぼれと一緒にするでない」
と、侍女らの腕を振り払うと、彼女は一人で城を出ていった。
杖もあり、ゆっくりとした足取りもいつもと変わらないが、どこか若々しく感じる背中だった。まるで何かを背負っているような、そういうものを残された三人は感じた。
それは二人が夢見た親の姿であった。
「大婆様。私たちと同じ華族出身で、同じお店で働いてたんだって」
閉じた扉を見つめながら、カマリはそう口を開く。
「え、同じお店だったの?」
「そうよ」
メッツァの街角にある、特権階級向けの酒場。
双子の姉妹は幼くして、親からそこに売られた。二人は決して親を憎みはしなかった。メッツァの経済が落ち込んでいた時期で、生きていくにはお金がいる。仕方がないことだと理解していた。ただ、子を売るような大人にはなりたくない。愛せる親になりたい。そう思いながら懸命に働いた。
二人は双子の名踊り子として一役有名になった。そしてステージに立つ人間としてはもちろん、ホールを回す人手としても息ぴったりな双子の手際は完璧と言えた。
ある日、国王であるラーハが店に来ることになった。
王位に就いた直後に王妃が亡くなり、更にはラーハの暴君っぷりも相まって国の空気は暗かった。
その暗さが広まっていた頃の出来事だったのだ。
カマリとミエスはいつものように踊りを披露する。王族や貴族から拍手喝采をもらった。そのような中、一人だけ拍手をしていなかったラーハが口を開いた。
「双子。歳はいくつだ」
「……11です」
「そうか。店主を呼んでくれ」
王の命令なのだ。二人はステージを降りると厨房にいた店主を呼んできた。
「この子たちを買い取らせてくれ」
二人は王のその発言に浮き足だった。特権階級向けと言えど、ここは酒場。王城での生活が待っているとなると、今後の安泰は約束されたようなものだった。
しかし、城へと連れて行かれると、専属の踊り子として働くわけではない、ということがわかった。
自分たち以外に専属の踊り子がいるのかと思えばそういうことではない。むしろ城の中に娯楽はなく、従者たちの表情は暗く、空気も重たかった。憧れていた煌びやかな生活ではないことは明白だった。
王から言い渡されたのは自分たちよりも二つ下の王女の側近となることだった。年も近いから仲良くなれるだろう、という意図で自分たちを買ったらしい。
王女がいるという部屋に通されると、身なりだけが高貴な少女がいた。死んだような目をしており、双子は幼いながらも、彼女の今までを悟った。
自分たちは親に捨てられたが、決して悲しかったわけではない。しかし、この子はどうだ。この世界に希望を見出せていないような顔は。
そんな彼女が唯一、元気でいる時は一人の少年と会っている時だった。年相応の少女らしくはしゃぐ様子。その笑顔を守りたいと二人は思った。
だからこそ。
「お願いがある。協力してほしい」
と、残された彼に頼み込む。
ヴィルもわかっていたかのように頷き、三人は議会堂へと足を急がせた。
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