初恋のゆくえ
翌週以降も、僕は駄菓子屋へ通い続けた。
山田さんはまるで何事もなかったかのように、いつもの山田さんに戻っていた。
それでも僕は後ろめたい気持ちを拭えず、山田さんの顔を見ることができなかった。
やたらと甘いだけだったはずのバニラアイスは、その日を境にほろ苦い味もするようになった。
「そこのベンチで食べていきなね」
予め決められた手順を守るように山田さんの言葉に従い、僕はベンチに座ってアイスを食べた。
そんなルーティンワークを何週間かこなしていると、いつの間にか夏が終わった。
暑い季節が過ぎてしまうと僕はアイスを食べる気にならなくなり、自然と駄菓子屋へも行かなくなった。
そしてその年の冬、僕は父の仕事の都合で遠くの町へと引っ越したのだった。
★★★
その夏以降、山田さんがどうしているのかを僕は知らない。
当時の恋人と続いているのか、別れたのか。
そもそも恋人だったのか。
今もあの町に住んでいて、駄菓子屋さんに顔を出しているのか。元気にしているのか。
僕には何も分からない。
ただ、今でも思い出す。
あの日の山田さんの笑顔と後ろ姿。
現実的に考えれば、叶うはずのない初恋だったので、未練のようなものは全くない。
しかし、様々な感情が複雑に絡み合った結果、この気持ちを誰にも言うことができないでいる。
当時の僕の淡い恋心は、今もあの駄菓子屋さんのベンチにひとり、取り残されているのだ。
感傷的な気持ちを切り替えようと、夏の青空に向かって大きく息を吸ってみる。
どこかでチリン……と風鈴が鳴ったような気がした。
駄菓子屋さんのお姉さん 花沢祐介 @hana_no_youni
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